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オヤジ達の白球 21~25話

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 怪しい気配を感じ取った祐介が、思わず手元の包丁を握りしめる。
さらにもういちど、ガタンと大きな音がした。
誰かが何かにつまづいたようだ。
横の路地も、店の裏側も、足元などまったく見えない真っ暗闇だ。
それでも誰かが確実にうごめいている。

 物音が、店の裏口へ向かってそろそろと移動していく。
(泥棒か?。最近、怪しい輩(やから)が徘徊してるというからな。
 油断できねぇぞ)

 祐介が手にした包丁を、ぐっと握り直す。

 裏口を探しているのだろうか。手探りの気配がつづく。
のろのろと移動していく物音が、とぎれとぎれにここまで聞こえてくる。
やがて、まったく使われていない勝手口のガラス戸が、2度3度、
遠慮がちにノックされる。

 「あたしだよ、祐介。
 慌てて路地に駆け込んだものだから、足をくじいたようだ。
 開けておくれ。あたしだよ。陽子だよ」
  
 「陽子?。ホントに陽子か・・・いったい何してんだお前。
 こんな時間に、そんな真っ暗な場所で、いったいぜんたい何をやってんだぁ?」

 「何もしてないさ。いつも通りの散歩だよ」

 「散歩?。正気かお前。
 真っ暗闇の露地と、足元の悪い裏道を歩くのが、お前さんの散歩なのか?」


 「バカ言わないの。そんなはずないだろう。
 たったいま、お前さんの店から、肩を組んだ男と女が出てきただろう。
 男の顔は知らないけど、女は、近所に住んでいる顔見知りの主婦だ」

 「何。柊の連れの女を知っているのか、お前は!」

 「びっくりしたよ。
 慌てて身を隠そうとしたけど、逃げる場所なんかどこにもないじゃないの。
 有るのは、あんたのところの路地だけだ。
 なんであんな狭い場所に、あんなにたくさん、ガラクタばかり
 置いておくんだよ。
 運動神経が良いから、辛うじて踏みとどまった。
 だけどさ、運が悪けりゃいまごろは、もっとおおきくこけて救急病院行きだ。
 とにかく、ここを開けておくれ。
 喉がカラカラだ。足も痛いし。とにかく冷たい水を一杯飲みたいな・・・」

作品名:オヤジ達の白球 21~25話 作家名:落合順平