オヤジ達の白球 21~25話
「おう。それなら見た見た!。
藤田まことが演じた3代目『剣客商売』の秋山小兵衛は面白かったし、
渋かった。
片田舎に住みながら、おはるという40歳も年下の女に手をつける。
この若い娘がのちに小兵衛の妻になる。なんともけっこうな果報者だ。
必殺シリーズとはまた一味違う役柄だったなぁ、
あのときの藤田まことの演技は。
ひょうひょうとした演技に、妙に迫力と説得力があった・・・」
「あら。話が噛み合ってきたわねぇ。
あんたは、ギャング映画か、スポーツ番組しか見ないと思い込んでいたけど」
うふふとカウンターで、陽子が笑う。
「失礼だな。お前さんと違って俺は本はあまり読まない。
しかし。たまには本格的な時代劇も、出てくる俳優しだいでしっかりと見る」
恐れ入ったかと祐介が、鼻を鳴らす。
せっかくだから一杯飲むかと祐介が、ビール瓶とグラスを片手に
厨房から出てくる。
「悪くないね」陽子が、もういちど笑顔を返す。
じゃ乾杯しょうと祐介が、ドカリと陽子の隣に腰をおろす。
「あら。何の乾杯?。
いまのところ、お祝いされることなんか、
全く思い当たらないけどなぁ・・・・」
「お前さんの、そのそそっかしさに乾杯しょう。
ガラクタだらけの路地道でドジを踏み、痛めちまったおまえさんの足に
乾杯だ。
大丈夫か?。痛むようなら、帰り道は俺が背負ってやるぜ」
「湿布が効いてきたから、なんとか歩けると思う。
駄目ならそのときは言葉に甘えて、あんたの背中を借りる。
そのかわり、はっきり言うけど見返りはないよ。
身体で払えと言われたって、もう、とっくに賞味期限は切れてる。
昔はけっこう濡れたけど、今はまったく濡れないよ。
いまはオシッコするだけの道具だ。
あら・・・色気がないなぁ。
こんな夜更けに、初恋の男と二人きりだというのに・・・・」
「そんな風におまえさんは、燃え上がった火をサラリと消すのが上手だ。
おお昔から・・・・」
一杯いけと、祐介がビール瓶を持ち上げる。
「それよりさ。さっきの剣客商売シリーズの続きを教えろ。
なんだか面白そうだ。ひよっとしたら酒の肴になるかもしれん。興味が出てきた」
カチリとビールグラスを鳴らし、祐介が、陽子の顔をのぞきこむ。
(25)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 21~25話 作家名:落合順平