小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

いたちごっこ

INDEX|28ページ/28ページ|

前のページ
 

 と、少しでも感じるはずだった。
 気がついていなかったのであれば、後になって、
――あゆみと出会っていたのは、最初が夢の中だったのではないか?
 などという発想も生まれてこなかったに違いない。
 そう思うと、夢と現実との間に少しでも時間が経ってしまうと、その間の溝はさらに深まってしまい、どちらも遠い過去に見えてしまうことで、距離感がマヒしてくるような錯覚と同じものを感じてしまうことだろう。
 夢に出てくるあゆみと、そして自分とでは。なぜか立場が違っていた。立場というのは専攻している学問が違うという意味で、つまりはえりなが電子工学を専攻していて、あゆみが心理学を勉強しているというものだった。
 場所はいつもの駅前の喫茶店。考えてみれば、二人はあの場所でしか面識がなかった。そのまま二人で大学に通学したり、どこかに出かけたりするということはなかったのだ。
 それなのに、お互いの意識はかなり強いものだった。少なくともえりなは、夢に見るくらいなので、意識が強くても当然だと思っている。ただ、あゆみを夢に見ることは、
――自意識過剰が原因なのではないか?
 と思うようになっていたが、その信憑性は皆無に等しかった。
 だが、最近の夢で自分とあゆみとが専攻しているものが入れ違っていることで、自意識過剰という思いを感じるようになったのだと、後追いで感じるようになっていた。
 えりなは、電子工学などまったく知るはずもないのに、口から勝手に電子工学の話が出てくる。あゆみの方も、心理学の話を違和感なく話している。ただ、お互いに相手の話している理屈が手に取るように分かるようで、現実の世界ではそれぞれに自分が専攻している学問なのだから分かるのは当たり前というもので、そう思うことが、いつの間にかこの間考えていた、
――夢の共有――
 という発想に結びついているのだろう。
 最近思い出した中学時代の夢といい、あゆみとの間に共有しているという思いを抱いた夢の発想であったり、えりなは最近の自分が夢に対して造詣が深いことを感じていた。
「夢とは潜在意識が見せるもの」
 つまりは、忘れられない思いやトラウマが、夢となって現れるという意味では、井戸の近くにいた少年を見て見ぬふりをしてしまったという意識が忘れられないトラウマと残っていたと考えるのは当然であろう。
 えりなは最近、
――あゆみと出会うのがどうして駅前の喫茶店だけなのか?
 ということを気にしていた。
 駅前の喫茶店から大学までの道、その途中にあるペットショップと、えりなが夢に見るのは、つまりは夢を見たとして忘れずに覚えているのは、決まって駅を降りてから、大学までの道での出来事だけだった。
――実に狭い範囲での夢の世界。夢には限界があるということかしら?
 と思うようになっていた。
 えりなが電子工学を、そしてあゆみが心理学を語っている時、話している内容が手に取るように分かっている。なぜなら、それは現実ではそれぞれ自分の世界だからである。そういう意味で、見ているのが夢であるということを確定させる発想になったのも頷けるというものだ。
 ただ、お互いに自分が研究している内容と少し違う発想を持っていることに、少しずつ気付いてきた。
 もう一つ不思議に感じたのは、
――いくら夢の中とはいえ、あゆみの気持ちまで分かるというのだろう?
 という思いだった。
 それが夢の共有という発想に結びついたことでもあったし、それよりも、お互いに鏡を見ているかのように感じたことから、夢を支配しているえりなには、全体が見えていたのではないかと思えた。
 ただ、えりなは、あゆみの言葉に急に我に返っていた。
 その言葉は、えりなが最初から思っていたことなのかも知れないが、それを認めたくない自分がいたのも事実である。
 あゆみの言葉は、
「結局は、これはあなたの夢なの。私はあなたの鏡であって、夢の共有なんてありえない。目を覚ましなさい」
 というものだった。
 ハッとしたえりなは、その瞬間、自分の夢から覚めていくのを感じた。
――認めたくないーー
 という思いが目が覚めようとしているえりなを包んだ。
 夢はそんなえりなの思いを知ってか知らずか、勝手に覚めていく。
――これって、忘れられないトラウマであり、さらには、無意識なトラウマなんじゃないかしら?
 過去から背負ってきた矛盾しているかのように思えるトラウマに、えりなは、またしても夢の限界を感じた。
 えりなは完全に夢から覚めていた。その時に覚えている内容は中途半端なもの。今まで忘れられなかった夢とも違う意識が、えりなの中にはあった。
――結局、私はいたちごっこを繰り返しているんだわ――
 という諦めのような境地に陥っていた。
 この思いを感じた時、走馬灯のように、夢の中の記憶が駆け巡っている。
――駅前のペットショップで見たハツカネズミ。中学の時に見て見ぬふりをしてしまった井戸のそばにいた少年。駅前の喫茶店で出会ったあゆみとの心理学と電子工学の話。そして、夢の共有の発想……
 そのすべてを想像しながら目を瞑ると、そこにはシャッフルが起こり、何がとまるのか、えりなには想像がつくような気がしていた。
「ハツカネズミ」
 そう呟くと、自分は結局、わらしべ効果を受けることはできない、いたちごっこを繰り返しているだけの人間に思えて仕方がない。
――夢の共有――
 やはり、永遠のテーマでしかないのだろう……。

                 (  完  )



2


作品名:いたちごっこ 作家名:森本晃次