オヤジ達の白球 16~20話
「こいつは一本ずつ、桐の箱に入って納品されます。
特級品だけに許された特別の待遇です。
実は正月の時期にだけ出回る、特別仕様の極上品です。
最上級の審判員を目指しているあなたに、ぴったりです。
何の目標も持たない、飲むだけが取り柄のウチののんべぃ達に、
あなたは希望と元気をくれました。
感謝をこめて、俺から、あなたへ贈るお礼の地酒です」
「え?。皆さん、目標を持っていらっしゃらないのですか?」
女の瞳が、祐介の顔を覗き込む。
「あるわけがないでしょう。あんな飲むしか脳の無い連中に・・・・」
2人が声をひそめる。その瞬間、2人の顔が近くなる。
距離があまりにも近過ぎていることに、祐介がすぐに気が付く。
あわてて2歩3歩、厨房の中を後ずさりする。
「目標どころか、何もやることをもっていない連中ですねぇ、
あいつらときたら。
日が暮れれば、酒ばかり呑むことを考えています。
趣味もなければ、家族と過ごす時間も作ろうとしない。
いや・・・のんべぇ過ぎるがゆえに、家族から無視されているというのが、
たぶん正解でしょう。
ここにいるのは夢を見る前に、ベロンベロンに酔いつぶれてしまう連中です」
「うふふ。
そうした状況をつくりだしている一番の張本人は、大将、
あなただと思いますけど?」
「おっ、あっいけねぇ。まさにその通りだ。
まいったなぁ。この件は、あなたと私のあいだだけの内緒話にしてください。
痩せても枯れても、居酒屋の大将だ。
これ以上の不用意のコメントは、身を滅ぼしちまう。
危ねぇ危ねぇ。これ以上は何もいえねぇ・・・」
作品名:オヤジ達の白球 16~20話 作家名:落合順平