オヤジ達の白球 16~20話
引き留めんな、つまらない話でと北海の熊が帰っていく。
ガタンと音を立て、入り口のガラス戸が閉まる。
「じゃ、そろそろ帰るか、おれたちも」かたずけを終えた祐介が立ち上がる。
岡崎と祐介の自宅は、帰る方向が同じだ。
ふらりと表に出た2人が、堤防の道を千鳥足で歩き出す。
「なぁ大将。
坂上のやつが本気で投げ始めたら、ソフトボールのチームを
作ってくれるかい?」
「常連客へ声をかけてもいい。
飲むだけなら全員がホームランバッターだが、野球の経験者は
ほとんど居ない。
それでもいいのなら集めてみるが、なんだか前途は多難だな・・・」
「素人ばかりのソフトボールチームが誕生するのか・・・
たしかに前途は多難だ。
だけどよ。誰かが本気で声をかけてくれなきゃ人は集まらねぇ。
ソフトは団体競技だ。
のんべぇばかりでも、10人も集まればなんとか格好になるだろう」
「酒ばかり呑んでいるのでは、たしかに身体に悪い。
身体を動かして汗をかくのはいいことだ。
飲んべェばかりの、ど素人のソフトボールチームか。
まぁいいか・・・そんなチームがこの世にひとつくらい存在しても」
突然の話だが、まだ実感はない。
実現するとは思えないが、手がけてみるだけの価値はある。
ぼんやり祐介がそんな風に考えはじめたとき、岡崎が生真面目な顔で振り返る。
「なぁ大将。ここだけの話だ。
いちどでいいから俺は坂上の奴に、何かを成し遂げさせてやりたいと
思っている。
あの野郎はみんなが言うように、取り柄の無いどうしょうもない男だ。
長続きした趣味なんか、ひとつもねぇ。
だがよ、こんどばかりは、あいつの瓢箪から駒を出してやりてぇ」
「同級生だからな、おまえさんは。
肩を持ちたい気持ちはわかる。
しかし。そんな簡単にウインドミルのピッチャーにはなれないぜ」
作品名:オヤジ達の白球 16~20話 作家名:落合順平