小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

バースト! 月島 綾香のおまじない

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 その下には、両手を上げた舞ちゃんがいた。
 その技は前に見た。
 素粒子を、物質を引き付ける力を操るんだ。
 今は空気をひきつけあい、プラズマに、つまり炎に変える。
 とたんに、巨大なかがり火が現れた。
 
 2つのジェットがやって来た。
 達美ちゃんと鷲矢くんはバランスをとり、排気をぶら下げた人に当てないよう、ハの字型に噴射している。
 おろされると、その人はへたり込んだ。
 ぬれてはいるけど、Yシャツは白く、ズボンもスーツ風。
 男性だ。身なりは良い。
 その体から、赤いロープのような物がスルスルと外れていく。
 ロープは達美ちゃんの腕に吸い込まれていった。
 ボルケーニウム。
 達美ちゃんの表層に使われる、遠い宇宙からもたらされた超常物質。
 熱でも衝撃でも自分のエネルギーに変え、今のように形を変えることもできる。
 そうか。
 熱い排気を当てないために、動くロープを使ったんだね。

「? あんたどこかで会ったこと、あるかね? 」
 達美ちゃんが、男性の顔をのぞき込み言った。
 20歳くらいかな。
 青年は顔を背けるだけで何もしゃべらない。
「アー!! 」
 その沈黙を破ったのは、栄恵ちゃん。
「いつぞやのコンサートで、タケ君を殴ったストーカー!! 」
 私の背中にも冷たい物が走る。
 栄恵ちゃんのいう事が本当なら。
「この男、犯罪者だ!! 」
 
 それは、達美ちゃんがアイドルを止めるしかなくなった事件だ。
 その日、達美ちゃんは鷲矢君を誘った。
 2人にとっては数カ月ぶりにあう機会だった。
 舞台の上と下で、感極まった2人は手をつないだ。
 そしたら鷲矢君が、ストーカーに殴られた。
 怒った達美ちゃんは、舞台を飛び降りて殴り返した。
 人間のアイドルがやっても、クビは免れなかっただろう。
 さらに達美ちゃんは、現役の兵器。
 それが民間人を勝手に殴るなんて、あってはならない事だ。
 たとえ相手が前にも暴力事件を起こしたとしても。
 それが裁判所の判断だった。

 男が、いきなり叫んだ。
 足のすくむ、現実感のないほど大きな声。
 それでいて、効き覚えのあるような。
 そう、ハンターの叫び声によく似ていた。
 とにかく、男は叫びと共に立ち上がり、走りだした。
 岩場の駐車場へ、白い車に向かっている。
 ハンターの解体場の前を通り過ぎた、あの軽自動車だ。

「待てえ! 」
 最初に男を追いかけたのは、栄恵ちゃんだった。
 男の背中に、蹴りを放つ!
 その逃走と追撃は、一瞬で終わった。
 達美ちゃんの機械の足は、両者にすぐに追いついた。
 ジェットエンジンは出しっぱなしだけど、使った様子はない。
 熱いから冷ましてるだけかもしれない。
 達美ちゃんの左手は栄恵ちゃんの蹴りを、右手は男の襟首をつかんで離さない。
 その上、達美ちゃんは2人を合わせたより重い。
 
 唐突に、さっき男が上げた叫びの意味が分かったよ。
 マワキ タツミチャン!

「離せ! 離してくれ!! 」
 男はそれでもあきらめない。
 前のめりになって逃げようとしている。
「いいの? 転けたら痛いよ? 」
 それに対して達美ちゃんの声は落ちついていた。
「いいの? あんたもひどい目にあわされたんでしょ?! 」
 栄恵ちゃんは私と同じ、納得いかないようだ。
 達美ちゃんは栄恵ちゃんを離した。
「それについては裁判で決着済み。
 ところで、まだ警察に通報してないよね? 」
 そう言えば、まだだね。
「今はしなくていいと思う。
 あんたも、その方がいいでしょ? 」
 襟首をつかんだままの男にたずねる。
 男は、へたり込むように頭を下げた。
「有村 修くん、だね」
 達美ちゃんは聴いた。
「そう……です……」
 返事は、蚊の鳴くような声だった。

 結局、有村 修青年は私の家に連れてくることになった。
 今は、お風呂に入っている。
 鷲矢くんと小宮山さんは、こっそり監視中。
 不審な物音を聞いたら、すぐにドアをケリ破ることになるだろう。
 何しろ自殺志願者だから。
 着替えは車の中にあった。
 おまじないは、もうやった。
 お風呂に向かう背中に向かって、瞬き3回。
 ワン・サウザンド。ツー・サウザンド。スリー・サウザンド……。
 だけど、どう話せばいいのか、わからない。

 とにかく、ご飯をだす。
 さしものハンター肉も、海に行ってる間に焦げてしまった。
 買い置きのハンバーグをご飯に乗せて、ロコモコ丼にしよう。
 あれ?
 疲れた人に栄養たっぷりの物をだすといけないんだっけ?
「見たところ、大丈夫だと思う」
 そう言ったのは、達美ちゃん。
 もうジェットウイングはしまい、舞ちゃんと栄恵ちゃんと一緒にパーティーを片づけてる。
「でも意外ね。本当に、あいつの事憎くないの? 」
 栄恵ちゃんが明け透けに聴いた。
 舞ちゃんもコクコクとうなづいて同意をしめす。
「まあ、なんと言うかな」
 達美ちゃんは言葉を探すためか、しばらく黙った。
「有村くんとは、事件の時と裁判の時にしかはっきり会ったことがないの。
 でも、事件と裁判の時で、性格が変わってるのが、印象に残ってる」
 ? 何それ。
「事件、と言うか、コンサートに来る時は荒々しい性格」
 それは、あなたのファンには珍しくない事ね。
「裁判の時は、ずっと怖がって震えてた」
「それって、よくある事じゃないの? 」
 栄恵ちゃんの質問。
「まえに、アイドルとして人にあっても、相手が自分を取り繕うとするから、立派な事を言ってても本気かどうかわからない。って言ってたじゃない」
 舞ちゃんも、私もそう思う。
 でも、達美ちゃんの答えは。
「私も最初はそう思った。
 でも、気になることがあるの。
 裁判では、裁判官とかいろんな人が話し合って判決をくだすよね。
 でも、有村さんはそういう人たちの話を聞かないし、信じようともしないみたい。
 本当の事を言え! とか、わけがわからない事言うな! とか。
 あれ、なんだったんだろう……」
 まさか、裁判で勝っても喜ばなかったんじゃない?
「よくわかったね。むしろ戸惑ってる感じだった」
 ニュースでは、兵器の管理をどうとか、神妙な面持ちで語ってたと思うけど。
 すると舞ちゃんが、スマホに何か書き込んで見せた。
『有村さんには真実とは違う、信じたい事実があるのでしょうか? 』
 自分が変態だと思い込みたいって事?
『それはありえると思います』
 再び書き込む。
 私が変態という言葉を使ったからか、赤い顔して。
『自分をダメな存在だと思いこみ、それを認識できるから自分は正しい。と思いたいのでしょうか』
「ヒドイ話ね」
 栄恵ちゃん。
「いいわ。私たちで励まそう! 」
 私もそう思った。
 でも、達美ちゃんからでたのは警告の言葉だったの。
「そうそう。有村君には直接叱ったり、がんばれ、なんて言うのはだめだからね」
 それは何で?
「自殺しようとしていたという事は、彼の精神は限界まで疲れているという事。
 向こうから、話しやすくするの」
 そして、いつも通りのリラックスした言葉で付け足した。
「いいじゃないの。