小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

バースト! 月島 綾香のおまじない

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

 もうしばらく、美味しいもの食べて、ゲームでもしてれば」

「……い、ただきます……」
 有村さんは、また蚊の鳴くような声。
 おずおずと即席ロコモコ丼とお味そ汁を口に運ぶ。
 その姿には、一片の暴力性も見いだせない。
 いえ、だからこそキレると、そうなるのかな?
 ……美味しい?
「はい、とても」
 6人の目でジロジロ監視したら、精神的に追い詰めることになって良くない。
 達美ちゃんのアイディアで、みんなは関係のないことをしている。
 響くのは海水にぬれた服を洗う洗濯機の音。
 男の子たちには、舞ちゃんがこっそりメモを見せた。
 思慮深い人たちだから、心配はなさそう。
 一度は有村さんを蹴り飛ばそうとした栄恵ちゃんも、おとなしくソファでテレビを見て……。
「グ―」
 寝てる!

 小宮山さんが、新しくハンター肉を焼いた。
 最初は誰もが食べるのにおっかなびっくり。
 だけど、有村さんはすぐ慣れたらしく、次々に平らげた。
 意外と度胸あるね。

 食事も終わり、私はいれたてのコーヒーを持って行った。
 私の好きな砂糖とミルクも一緒に。
「どうぞ」
 有村さんはブラック派らしい。
 落ち着いた顔は、けっこうかわいかった。
 そう思ってたら突然、話しかけられた。
「あのさ、そろそろ尋問と言うか、俺の話しを聞いた方がいいんじゃないの? 」
 ……なんでそう思うの?
「だって、兵器なら公共の福祉、犯罪の予防に務めないと……」
 そう言われ、視線を向けられた達美ちゃんは。
「そう? じゃあ……。
 ねえ、あなたって、嫌なことがあると、正義感を持って解決しようとするよね」
 話し始めた。
「あの時だって、タケくんを私の優しさにつけ込む悪いやつだと思ったから殴った」
「あんたが気前良すぎるのよ」
 栄恵ちゃんだ。
 起きてたんだ。
「握手した相手がパンチラ撮ってブログに載せてたりしたじゃない」
 有村さんに、過ちを犯したのは自分だけじゃない、と伝えて励ますためかな?
 まさか達美ちゃんに話しかけるとは。
 達美ちゃんが頭を下げる。
「それは、反省しています。
 それに比べれば有村さんは、誠実な感じがするよ。
 裁判の発言も誠実な感じだったって、タケ君も言ってたじゃない」
 鷲矢君が、うなづいた。

「で、今日の事は、何があったの? 」
 達美ちゃんの言葉に、有村さんの表情は硬まった。
 そのまま。だけど、意を決したようで話しだした。
「い、居場所が無くなったからだ」
 絞りだす。そんな感じのかすれた声。
「裁判では、あんた達の責任……なぐった俺の拳が折れたとか、そういう事に焦点が行った。
 だけど、身近な人たち、両親にとっては、そうじゃなかった。
 無神経、無責任、暴力性が、おまえの本質だとののしられた。
 アイドルを追いかけた事は、軟弱さの表れだと言ってたよ」
 次第に涙声がまじってきた。
「これでも、会社では若手筆頭と呼ばれてたんだ。
 1人暮らしだって、サークルでやってたサッカーだって、しっかりできたという自負もある。
 だけど、どれも失った。
 親が、会社やアパートやサークルに連絡したんだと思う」
 そして、みんなを見ながらつぶやく。
「なあ、俺のことを情けないと思うか? 」
「もう少し聞かせて」
 私の口が動いた。
 自分でも不思議な、勝手に動いた感じ。
 ゲスな好奇心? 本気で必要だと思った?
 とにかく、生まれて初めて感じる強い欲求で、聞きたいとおもった。
「そうだね……。
 自慢するわけじゃないけど、そこそこ人気ブロガーだったと思う。
 1日に700ぐらいアクセスがあったし。
 君たちの特殊な事情や、巻き込まれた事件。
 その苦難については理解していた、と思いたい」
 ハンター・キラーについてや、達美ちゃんや舞ちゃんや仲間たちが、強さを見込まれて異世界に召喚された事件の事ね。
「今じゃアクセス数0。
 代わりに、こんなうわさが立った。
 真脇さんがハンター・キラーになったから、それを追ってハンター・キラーへの転職がふえる。
 それで兵器が売れる。
 結果、日本の治安が悪くなった。とね」
 その噂なら、みんな知ってる。
 そもそも達美ちゃんのファンは、20年前から増え続けるハンター・キラーや警察、自衛隊などだから。
 でも、達美ちゃんは失脚した。
 そのことで、それまでの居場所も不確かなものに思えた人たちが、追いかけて……。
 だけど。
「そう。それだけがハンター・キラーになる理由じゃない」
 有村さんは分かっていた。
「お金やスリルを求めて。異能力を生かせる職場。無人兵器が発達して、無能力者でも安全になったのも増える理由だね。
 でも、理由なんて千差万別。
 本人のほかには分からないけどね」
 有村さんは、もういっぱいいっぱいです。という感じで言葉を断ち切った。
「ごちそうさま。
 言うだけ言ったらすっきりしたよ」
 その時、洗濯が終わったことを示すブザーが鳴った。
 私は洗濯物を取りに行く。
 そう離れていないから、話は聞こえる。
 
「で、どうする気なの? 」
 達美ちゃんだ。
「自殺は止めだ~! 」
 初めて聞く有村さんの明るい声。
 そして大きく伸びをする気配。
 でも、わざとやって見せてるみたいだ。
「別に親にオンブでダッコで生きてたわけじゃない。
 蓄えだってある。
 せっかく、遠くまで来たんだから、どこかで再就職を目指すよ」

 多分、彼の言葉にうそはないだろう。
 でも何か、してあげなきゃいけない気がした。
「待ちなさい! 」
 私は洗濯物を入れた袋を手渡しながら言った。
 あのMVさながらの、女王様ボイスで。
「1つおまじないを覚えていくといいよ。
 相手と仲良く話したいときの物だよ」
 有村さんはキョトンとしている。
「相手の背中に、3回まばたきする。
 ワン・サウザンド。ツー・サウザンド。スリー・サウザンド……」
 有村さんは、さすがに吹きだした。
「なんだ、それ」
 でも、悪い気はしない。
「そうです。おまじないなんて、単なる時間稼ぎ。
 でも、それをしている間、私たちはその問題に向きあってる。
 だったら、その分私たちの姿が目につく可能性だって高まるはず。
 きっと、あなたの事を見てる人だっているはずです」

 彼は、再び歩きだした。
 さっきよりは力強い足取りで。
 きっと彼は救われる。そして私も。
 私たちは、お互いを助けあったんだ。