バースト! 月島 綾香のおまじない
ちなみに、さっき「じゃ~ん」を言ったのは栄恵ちゃんだけ。
舞ちゃんは異能力が使える代わりに脳に障がいを負って、言葉が話せないの。
だから「じゃ~ん」はスマホのメモ機能で表現してる。
いつの間にか、テーブルの上にはテレビが置かれていた。
それから、シンセサイザーの高音による明るいリズムが流れる。
私たちのオリジナルソングのミュージックビデオだよ。
周りで激しく演奏したり、ステップを踏む仲間達。
その中心でゆったりと踊りながら、女性にしては低い声で歌うのが私。
ディナーは、動画サイトに投稿する前のMV試写会なんだ。
やっぱり恥ずかしい!
いくら歌やダンスがうまくても、それ自体だけだよ!
だけどテレビからは、激しさを増す達美ちゃんのエレキギターや小宮山さんのドラムにのって逃げることは許さない!とばかりに。というか、そういう歌詞が流れてくる。
そうだ。がんばれ私!
「あはは。ありがとう。ありがとう」
飲み物を取り、手も振ってみる。
……すごく偉そう!
熱帯夜の熱をかき集めて苦しめる、背中まで届く白いウイッグ。
痛い赤のカラーコンタクト。
白い陶器のような肌は、分厚いファンデーション。汗に乗って垂れさがって苦しめられた。
二重アゴはテープで引っぱられて小顔に。
コルセットをきつく巻いたおなかには、たしか、私の記憶が確かなら、生まれて初めてクビレができた。
そして、栄恵ちゃんがどこかのサイトでレンタルして来た……黒いレザー調女王様風ロングドレスと、肘まで覆う、ロンググローブ。
いわく、「白い光を背後におくと、闇夜でかえって生えるんだよ」と言うピカピカのツヤツヤが施された物だ。
そのもくろみは、たしかにかっこ良かった!
背景は、地元に住んでいてもめったに来ることがない岬。
街灯りははるか遠く、最も輝くのは満月。
私の白と黒は、その満月の下に輝く波と最低限の照明の元、さらに妖しく輝き続ける。
やっぱり慣れない。
望んでいた事なのに。
というか、怖い!
本当の私は、絡まるくせ毛が嫌で、短く刈り込んでいる。
そして健康に気を使い、すくすくと……いや、言い訳はすまい。
好きで食べた結果、ブクブクと育った体。
達美ちゃんは、「このくらい大きい方が存在感があるね!」と言ったけど。
この情けないのが私。月島 綾香。
思わず後ずさりしようとしたら、後ろからギュッとおなかを包まれた。
「やっぱり面白~い。オモチみた~い」
包む腕は、細くて小さい。
ああ、達美ちゃん。
いるのが奇跡の元アイドルは、振りほどこうとしても、びくともしない。
この子は、本当に作詞作曲やプロデュースの実力もあるんだよ。
今でも、復帰しないかと誘いが来るらしい。
でも、今の生活が気に入っているからって、断っているんだ。
詐欺師も言い寄って来るらしいしね。
「やめなよ。達美ちゃん」
後ろから声をかけたのは、メガネをかけたやせた男の子。
達美ちゃんのボーイフレンドの鷲谷 武志君。
MVではシンセサイザーを担当していた。
その彼が達美ちゃんを優しく外した。
彼は達美ちゃんと同じサイボーグ。れっきとした戦闘用。
だけど、達美ちゃんが従うのはそれだけじゃない。
鷲谷くんは私と同じ学校で、達美ちゃんとはちょっと遠距離恋愛。
だけと、2人はいつも仲良し。
なかなかできないことしてるな。
鷲谷くんは達美ちゃんの耳元で何か、ささやいている。
何となくおなかの肉、とか、気にしてる、とか聞こえた気がした。
そう。
私は怠惰の象徴であるおなかの肉を気にしている。
それに対する達美ちゃんの答えは。
「え〜。タケ君。
私、やわらかいとこ触られるの好きだよ」
ああ、言っちゃった。
この6人が、私のチーム。
二つの学校からメンバーがいるのは、もともと軽音をやる人が少なかったため。
こんな小さなチームなら、私みたいなどんくさい子にも出番があって、それを足掛かりに自分を変えられると思ったんだ。
それは、たしかにある程度までは成功した。
でも、すでにコントロール不能なレベルまで行ってしまったようだ。
パーティーは続く。
このお肉、ほんとにおいしい。
普通は怪獣の肉なんて、何万トンもある体重を支えるため、硬くて仕方がない。
そのままロープに使えるほど。
だけどこの肉は柔らかく、肉汁はさわやか。
達美ちゃんを作ったのはハンター・キラーの会社、ポルタ・プロークルサートル社。
その面目躍如って感じ。
おかげで大いに盛り上がった。
今、我が家にはチームしかいない。
両親と父方の祖父母は、「今夜は友達と楽しみなさい」と言って、どこかに出かけてしまった。
買い置きしてあった酒類と一緒にね。
……みんな、あっても飲まないよ。
あれ。これは何?
双眼鏡にしては余計な機械がついてるけど。
「暗視ゴーグル。夜に動く動物を見ると面白いよ」
そう言う達美ちゃんに使い方を教わり、遠くを見渡してみる。
本当だ。
すっかり暗くなっても、熱を持った人や自動車が、白く見える。
海の方を向いてみた。
そこにも白いものがある。
どうやら人らしい。海水浴か密漁かな。
そこは、切り立った岩場があるところだった。
岩の陰に隠れるように、大きな熱源がある。
エンジンを切ったばかりの、乗用車だ。
それにしてもおかしいな。
この辺りは広い日本海からの荒波が押し寄せる。
海底も岩場。
転べば命にもかかわるから、夜は泳ぐ人も、散歩する人さえいない。
……まさか……自殺!?
そのことを訴えようと、私は振り向いた。
でも、あまりの緊張に言葉がでない。
それでも、小宮山さんは私の異常に気づいてくれた。
「おい! 顔が真っ青だぞ! 」
それを聞いて、他のみんなも注目してくれた。
なんてすてきなお友達!
「私が行く! 」
そう言ったのは達美ちゃん。
「僕も! 」
と鷲矢君も。
同時に、2人の背中から首の後ろに、大きな機械が飛びだした。
機械は箱型に、そして翼が飛びだす。
2人を飛ばすジェットエンジンと翼。
「みんなはあかりを照らしたり呼びかけたりして、彼の気を引いて! 」
鷲矢君がそう言うと、2人は海に飛んで行った。
私は家にとびこむと、懐中電灯をあるだけ持ってみんなに渡す。
停電が怖いと言って、お金に余裕があると買ってくるお父さんに感謝です。
小宮山さんは、腕で大きく円を書いた。
すると円の中に、これから行きたかった海岸が見えた。
かれはテレポーターなんだ。
「そんなに長く開けられない! 急いで! 」
私たちは岩だらけの海岸から自殺志願者(?)を探した。
「おーい! もどってこーい!! 」
「警察に逮捕されるよ~! 」
私は暗視ゴーグルで見るから場所は分かる。
なにあれ。海面や周りが真っ白に見える。
きっとジェットの排気だ。
ものすごく熱そう!
とにかく、そこにみんなの光を導きながら、叫びまくった!
「戻りなさい! 」
頭の上で風が起こった。
信じられない速さで空気が一点に集中していく!
作品名:バースト! 月島 綾香のおまじない 作家名:リューガ