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バースト! 月島 綾香のおまじない

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バースト。
 20年前、私たちの文明を根本から変えた現象。
 人々の中から、それまでファンタジーな物語にしかいないと考えられてきた異能力者が突如姿を現した。
 空を飛ぶ者、火を吹く者、変身する者。ほかにもたくさん。

 ハンター。
 異なる次元から現れた、巨力な捕食者。
 要するに怪獣、モンスター。
 これらの発生現象をひっくるめてバーストと呼ばれる。

 ハンター・キラー。
 ハンターを狩る人たち。
 ハンターの皮膚や骨、爪は鋼鉄より硬い。
 肉は珍味として知られる。
 ハラワタの内容物……つまりフンは大きな畑の肥料になる。

 そんな産業にも人間はすっかり慣れてしまった。
 一緒に発達した、各種技術と一緒にね。
 
 でも、生まれる前からあっても、慣れるかどうかは別だよね。

「おめでたい時には、おいしい物がなくっちゃ。綾香ちゃん! 」
 その言葉には、賛成したいな。
 でも、連れてこられた場所が問題だった。
 そこは大きなテントの中。
 それも、大きなビルを解体する時、破片が飛び散らないように覆うような物。
 
 大きなバスが入口。
 外部からのバイ菌や毒ガスを防ぐタイプ。
 中には使い道のわからない機械が詰め込まれてるよ。
 ハンターの中には体に猛毒や爆薬のような成分を持つ者もいる。
 最悪、死ぬと毒を含んだ大爆発を起こすんだ。
 そんな成分を調べるものだと思う。多分。

 私は、血の匂いもシャットアウトされた、その中にいる。
 月島 綾香。16歳。
 無能力者《ノーマル》。
 壁に作りつけられた薄いクッションのイス、狭くはないけど痛いよ。
 170センチの体は収まるけど、プニュンと広がる太ももとお尻もクッションにはならなかった。
 
 テントの中で一番大きいのは、巨大で赤い人型ロボットのハンター・キラー。
 たしか名前は、ウイークエンダー・ラビット。
 手足には、格闘戦を想定した分厚い装甲を施したやつ。
 しかも、ちゃんと使っていた証拠に、塗装がはがれて灰色の地が見えているよ。
 このテントも、あのラビットが傘みたい開いて立てた。
 前に学校の社会見学で見たことがある。
 クレーン車や人が作ると、3カ月かかるんですって。

 狩られたハンターは、テントの真ん中から逆さづり。
 もともとは、ヤマアラシのように背中から無数のトゲをはやしていた。
 それが、今はトゲも毛の生えた革もはぎ取られ、筋肉だけの姿になっている。
 首にはぱっくりと避けた傷があり、血がしたたり落ちている。
 血ぬきの跡。
 その下には小さな浄水場そのものがあり、血を浄化している。

 肉をはぎ取るのは、ナイフを手にしたラビットと、アームの先にハサミをつけた2台のパワーショベル。
 切り分けた肉を、大きなトラックに乗るようなコンテナと、大きなまな板に器用に乗せた。
 まな板の前には、白いかっぽう着に髪をまとめる帽子、それにマスクをした1人の女の子がいる。 
 私をここに連れて来た張本人、じゃなくてネコ。
 真脇 達美ちゃん。
 交通事故で死にかけたネコの脳を使ったサイボーグ。
 しかも純然たる戦闘用にして、元アイドル。
 小学生にも間違えられるほど、その姿はかわいらしい。
 でも、手に持っている包丁は、刃渡りは50センチ。刃から峰までが人の顔ほどもある、クジラ包丁。
 達美ちゃんは、それをすごい勢いで振り落とす。
 肉は瞬時に細切れにされていく。
 その荒々しい姿に、思わず背筋が、寒くなってくる。
「い、いけない」
 その時、達美ちゃんが背中を見せた。
 ちょうどいい。
 おまじないをしよう。
 それは、相手と仲良く話したいときの物。
 相手の背中に、3回まばたきする。
 ワン・サウザンド。1回。ツー・サウザンド。2回。スリー・サウザンド。3回……。
 やがて、達美ちゃんは肉をビニール袋に入れ、アイスボックスに詰めた。

 今日は偶然にも、2人とも野球帽に白Tシャツ、ネイビーブルーのひざまでパンツ。
 でも、達美ちゃんの方が絶対目立つ。
 髪の毛は真っ赤。
 今は見えないけど、帽子を盛り上げるのは、ごきげんよく天に伸びた猫耳。
 同じ色の毛が、シャツとパンツの間からしっぽとなって伸びている。
 その真っ赤な目は、まんまるく輝き、ニコニコだ。
 私は、この顔がとてもかわいいと思っている。
 でも私は、自分で決め、やって来たのに。
 解体する達美ちゃんの姿が・・・。
 ……気持ちが悪い。

 いただきます。
「ありがとね〜」
 そう、居並ぶ銃を持った従業員にあいさつして、テントをでた。
 外に並ぶのは、荷台やサンルーフにでっかい機関銃やロケット砲を載せた、軽トラックや大型SUV。
 それに無人戦車。
 人が乗らなくても、人工知能や遠隔操作で動くやつだ。
 大砲がついている。
 空を旋回している小さな飛行機も一緒。
 胴体と翼にミサイルを並べている。
 倒したと思ったハンターが動きだすこともあるし、重武装の泥棒もいるから。

 だめだ。
 夏休みの強烈な日光に照らされて、頭が動かなくなりそう。
 早く家に帰ろう。

 外はラビットとヤマアラシハンターの戦いと爆撃で穴だらけになった、狭い谷あい。
 休耕田、過疎化で作る人がいなくなった田んぼしかない。
 ハンターを追い詰めるには、ちょうど良かったのかな。
 あちこちに赤い電柱のような物が突き刺さっている。
 これは、ハリネズミハンターがミサイルのように発射した背中のハリだ。
 戦い後の穴は、慣らされて鉄板がひかれ、道になっている。
 私たちは、同じように仮設された海沿いの国道まで歩いていく。
 達美ちゃんは大きいアイスボックスを軽々と持つ。
 私は小さいやつ。
 その時、国道に白い軽自動車がやってきた。
 谷の前で止まったところを見ると、野次馬かな?
 10秒もせず、軽自動車は走り去った。
 私たちは特に気にせず、バスに乗った。

 バスは舗装された国道に移り、無事だった街に入る。
 私の家族を含めた住民の避難が発令された時は、大変だったけど。
 家に帰った私は、冷たいシャワーを浴びた。
「は~」
 夕方の海風よ。もっと冷やしてよ。
 家は海を見下ろす丘の上にある。
 もうすぐ、オレンジ色の太陽が真っ赤になって海に沈む。
 この景色のよさが、我が家のひそかな自慢なんだ。

「よっ! 今夜の主役の登場だ! 」
 うう、照れ臭い。

 迎えたのは、小宮山 孝太さんの温かい声。
 彼は隣街の高校、魔術学園に通う。
 異能力者が集まる、政府肝いりの学校なの。
 音楽部の副部長である3年生。
 私、背の高い人が好きなんだ。
 で、彼はめったにいないそんな人。
 私の憧れ。

 海を見下ろす庭に、BBQコンロを囲む仲間たち。
 コンロではさっきのハンターの肉がジュウジュウ音を立てている。

「じゃ~ん」
 女の子が2人、左右に広がって、もっ体ぶったしぐさで後ろを示した。
 1人は私の同級生。
 つまり無能力者の元気がすてきな高校生。
 ブラスバンド部軽音班長。塚原 栄恵ちゃん。
 魔術学園からは1年生ながら、その卓越した楽器の腕で音楽部部長に推挙された、竜崎 舞ちゃん。