オヤジ達の白球 11~15話
ナイター設備の球場を短期間でつくることなど、朝飯前。
あっというまに、6社からなる業界のソフトボールリーグが誕生した。
週末の度に試合が開催された。
もと高校球児の熊にも白羽の矢が立った。
肩を壊したとはいえ、甲子園出場を目指した本格派の右ピッチャー。
野球とソフトボールのルールは、ほぼ同じ。
ただし。バッテリー間の距離と塁間が、野球より短くなる。
距離が短くなる分、スピード感がアップする。
プロ野球の選手が女子が投げる、110キロのボールを打てないのはこのためだ。
もうひとつ。下から投げる投法は肩に負担をかけない。
肩を壊している熊に、ピッチャーとしてのチャンスがふたたびやって来た。
群馬へやってきてから3年目の春。
21歳になった北海の熊が、野球のボールより2周りおおきいソフトボールを握る。
野球のボールより、はるかに重い感触が熊の手におりてくる。
ソフトボールのウインドミル投法は、このボールの重さを利用する。
腕をまわし、腰の骨あたりで手首か、またはそれよりも肘に近い所を当てる。
当てた衝撃で手のひらが、親指から内側にねじれる。
最終的に手の「こう」が上(天井)をむく。
この手首の回転がソフトボール独特の変化と、スピードを生む。
野球の経験が生きて、北海の熊がわずか1年でウインドミルをマスターする。
ここから熊の所属しているチームの快進撃がはじまる。
無敗の歴史は、10年余りつづく。
しかし。負けを味わう前に、バブルがはじけた。
不況の風が押し寄せる中、土木屋のチームがあちこちで解散してしまう。
バブル崩壊をまともに受けた筆頭は、不動産業界。
建築業界と土木業界も、それに負けず劣らずのはげしいダメージを受けた。
バブル後にやってきた未曽有の不況は、あっというまに土木業界のソフトボールチームを
根こそぎ壊滅させた。
(14)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 11~15話 作家名:落合順平