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短編集36

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 だが、菌にも潜在期間があり、その間に思いとどまれば自殺することもなくなる。却って免疫ができて、その後決して自殺など考えないだろう。ただ、自殺をしようと考えたことはまったく忘れてしまっていることを除けば、菌の存在を否定するものではない。
 だが、二十八歳になった日高氏が、なぜ今さら橋の上から下を見ているのだろう。
 今の日高氏は無の境地だと思っている。ある意味、何に対しても無関心でもある。
 とにかく今の日高氏は臆病だということを自覚している。今までここまで何に対しても無関心だなどと思ったことがないほどだ。
 昔のことが走馬灯のように駆け巡っている。ハッキリ見えていたものが見えなくなったのは間違いない。
 何か見えない力に操られているのが怖いのか、自分が考えていることを分かっていて、それが怖いのだろうか。きっとどちらもなのだろう。
 別に何かがあったというわけではない。何もないのがいいことなのかと、考えているくらいである。
 ここから先は自分の考えではない。まったく無関心になりきって、他人事だと思っている自分を表から見ている自分の存在に気付いていた。
――明日のことすら自分たちにはまったく分からない――
 と思いながら、下駄を放り上げていた時を思い出していた。そして感じたのが、
――安らかな気持ちになりたい――
 という、ただそれだけのことである。安らかという言葉の意味を知ることは、本当にできるのだろうか?

                (  完  )
作品名:短編集36 作家名:森本晃次