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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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 銃声と共に道路に面している窓ガラスが弾け飛び部屋中に破片が散乱する。敵襲以外のなんでもない。
「ハルナちゃん逃げるよ!」
 そう言って時雨は瞬時にハルナを抱きかかえて家の奥へと走り出した。
 騒ぎを駆けつけた夏凛と時雨が鉢合わせになる。
「兄さま、どうしたの!?」
「夏凛は外で敵と時間稼ぎ、ボクは村雨を取って来る」
「OK」
 夏凛の返事を聞くと時雨はハルナを抱えたまま三階へと駆け上がって行った。
 残された夏凛は玄関へと走り出しハルナの靴を履くと急いで道路へと飛び出した。
 道路に飛び出した瞬間敵の発砲に遭い、月光照らすアスファルトの上をアクロバットで宙を舞いながら銃弾を避け敵に近づく。
 敵は、夏凛を追いかけて来たキリングドールだった。
 乱射される銃弾を避けているうちに弾が切れた。それを見計らって夏凛の回し蹴りがキリングドールの頭に炸裂される。
 キリングドールの身体は大きく吹き飛ばされ、時雨の店のシャッターにぶち当たり破壊した。
「さすがに普通の靴で蹴ると痛ったぁ〜い」
 しゃがみ込み左足を押さえてうずくまる夏凛の視線の先の瓦礫の山が吹き飛んだその中から無表情のキリングドールが無傷で現われた。
「私のメガトンキックでもダメなのぉ〜!?」
 夏凛は身体の強度と重さを一瞬だけ自由に変えることのできる特殊能力を持っている。今の蹴りは、三トン程の威力があったのだが、それでも無傷のマシーンを見て夏凛は愕然としてしまった。
「さすがにこの靴じゃあれ以上の蹴りは無理」
 夏凛の普段履いているブーツは有名な魔導士が製作する特注品で、特殊な素材で作られており、夏凛の蹴りに耐えられる強度と水鳥の羽根よりも軽い重さを誇っていた。いくら身体の強度を変えられるといってもそれには限界があり、いつもの靴を履いていない状態では本気を出すことはできない。
 夏凛に向かって歩いてくるキリングドールの後ろ――店の奥で何かが激しく閃光を煌かせた。
「ボクの店をどうしてくれるんだ!」
 妖刀村雨の代用品、妖刀殺羅を構える時雨の目は怒りで満ち溢れていた。村雨は下水の中に落として来てしまったらしい。
 黒いロングコートを風になびかせながら時雨は、キリングドールへと斬りかかった。
 真紅の光を放ち振り下ろされるソードからは光の粒が血の玉のように飛び散り、それを片手で受け止めようと手を出したキリングドールであったが、その行為は虚しく。出された手は腕ごと切断された。
 火花を飛ばしながら血の代わりの緑色の液体を出す腕には気にも止めず、キリングドールの蹴りが時雨のわき腹目掛けて繰り出される。
 蹴りはわき腹に喰い込み、苦痛の色を浮かべる時雨であったが、ソードの柄を強く握り締め相手の首目掛けて振った。
 マシーンの首が宙を舞い、地面を落ちた。虚しい金属音が夜の澄んだ空気に響き渡る――。
 戦いを終え、わき腹を押さえ道路に片膝を付く時雨は辺りを見回し呟いた
「……夏凛は?」
 もう、この場には夏凛の姿はどこにもなかった。夏凛いつの間にかこの場から逃げてしまっていたのだ。
 夜の闇にバイクの走る音が聴こえた。夏凛が戻って来たのかとその方向を見ると大型バイクに跨った女性がこちらに向かって来るではないか!?
 向かってくるというのは、?近づいて来る?ではない。時雨をひき殺す勢いでこちらに向かって来ているのだ。
 それに気付いた時雨は間一髪のところでアスファルトの地面の上を転がり、向かって来たバイクを避けた。
 時雨をひき殺すことに失敗したバイクは激しい音を立てて急ブレーキで止まると、特殊部隊のような重装備をした女性がバイクを降りて時雨に近づいて来た。
 女性は明らかな殺気を放っている。だが、感情がない静かな殺気だった。このような殺気は先程のキリングドールからも感じられた。つまり……。
「また、キリングドールか……はぁ」
 妖刀を構え立ち上がる時雨であったが、腹に痛みを覚え顔しかめる。だが、キリングドールには相手の事情など構うわけもない。
 瞬時に抜かれた銃から九ミリの銃弾が秒速三〇〇キロメートルの速さで発射された。時雨との距離は一〇メートルを切っている。だが、時雨はそれを防いだ。
 まさに目にも止まらぬ速さで時雨は剣を振るい、銃弾を叩き斬り消滅させた。人間の技とは思えぬ神の成せる業であった。
 銃弾を叩き斬った時雨の身体はわなわなと震えていた。
「この妖刀はボクの手には余るな……ボクの身体の限界以上の力を引き出してくれる……」
 限界以上の力を引き出す。それは身体に過度の負担をかけることを意味していた。
 再び銃弾を発射される前に時雨は相手の銃を構える手を腕ごと切断しようとした。だが、相手は並の人間ではなかった、キリングドールだった。腕は瞬時に引かれて腕を切断することはできなかった。だが銃は切断できた。
 目的の根本を達成した時雨は敵に背を向けて走り出した。つまり逃げたのだ。
 自分の店を構えている商店街を黒いロングコートをなびかせながら走り抜ける。時雨はこの商店街で騒ぎを起こしたら追い出され店の営業ができなくなると考えたのだ。
 キリングドールは時雨の真後ろを走っている。もう少しで手が届いてしまう距離だ。そして手が伸ばされた。
 それに気付いた時雨は回転しながら妖刀を振るった。キリングドールは後ろに飛び退き間一髪のところでそれを避けた。
「惜しかった、もう少しで斬れたのに……でも、ここなら思う存分に戦えるかも?」
 ここは商店街を抜けた先にある神威神社。変わったしゃべり方をする美人の巫女がいることで有名な神社だ。
「ここの境内広いから……少しくらい暴れても平気だよね?」
 気兼ねをする時雨だが、キリングドールは命令以外のことに構いもしない。
 襲い掛かってくるキリングドールを交わし、時雨は相手の股から頭上にかけて一刀両断を試みたが、キリングドールは状態をひねり腕でそれを受けた。もちろん一刀を受けた腕は斬り飛ばされた。
 斬り飛ばされた腕は遠くまで飛び、しめ縄の架けられた御神木の横を掠めるようにして落ちた。
 冷や汗を一滴流し、顔を蒼くした時雨の身体は固まってしまっている。そこにすぐさま巫女装束を着た人物が現れた。命だ。
「神社で暴れるなど不届き千番。時雨、わらわの寝起きが悪いことはお主も知っておろう? 説教は後でしてやるのでな覚悟せいよ。じゃがな、今は人の形をしたまがい物を滅するのが先じゃ」
固まり何も言えない時雨を無視して命は空に印を描く。
「汝らは全てを滅する力なり、?招?!」
 命は右手の中指と人差し指で空を突き刺した。すると、空間が裂け、中から二人の鬼神が現れた。
 おぞましい怒りの形相をしている赤色の肌を持つ鬼神は、二体同時に手に持っていた鞘から剛剣を抜き、キリングドールに襲い掛かった。
 鬼神を敵と判断したキリングドールは鬼神を倒すべく挑むが力の差は明らかだった。キリングドールは三〇秒もしないうちに残骸と化してスクラップにされていた。
 命の視線が時雨に向けられた。
「さて、時雨よ。言い訳は聞くがの、仕置きは覚悟せいよ」
「あのね……夏凛がキリングドールに追いかけられてさ……それでボクにそいつを押し付けて……」