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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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第7章 兄さまがんばれ!


 数十分前――。
 時雨――彼は帝都で一番美しい。そして、今は帝都で一番臭かった。
「…… 死ぬぅ」
 帝都の駄天使は、帝都地下に棲む大海蛇リヴァイアサンと呼ばれる怪物との死闘の末、下水に引きずり込まれてしまった。
 下水に引きずり込まれた後、どうにか九死に一生を得た時雨は我が家に帰って来て、家の前で安堵感から立ち尽くしていた。
「……夏凛なんか助けるんじゃなかった」
 しばらく、ぼーっとした後、時雨は家の脇にある階段で二階へと上がった。一階はお店となっていて自宅の玄関は二階にあるのだ。
 コンコンと叩いてドアをノックする。ちなみにドアの脇にはインターフォンも付いている。
「ハルナちゃん開けてぇ〜」
 ややあってドアは開けられ、チェーンロックの掛けられたドアの隙間から眼鏡をかけた女の子がこちらを覗いた。
「おかえりなさ〜い、ふぁ〜……っ!?」
いきなりドアが勢いよくバタンと閉められた。しかも、その後ガチャという鍵を閉める音もした。
 理由は明白だった。ドア越しで声が聞こえた。
「テンチョ、クサイですよぉ!」
 時雨は臭かった。それも今は帝都一臭い。
「臭いのは自覚あるから、開けて」
「イヤですよぉ〜、鍵は開けておきますけど……あたし、寝室にこもりますから、少ししたら入ってくださいね。それから、シャワーとか浴びて綺麗になったら、部屋中にバケツで芳香剤まいといてくださいね」
 ガチャと鍵が開けられた。――しばらく待つ。――もう少し待つ。――そしてドアを開ける。
 ゆっくりと開かれるドアと共に異臭が家中に流れ込む。
 時雨急いでシャワールームに直行。そして、脱衣所で着ていたコートや服を脱ぎ、瞬間乾燥機付きの洗濯機に服を全部入れてスイッチオン。
 いつもどおりの行動をした時雨はお風呂に入った――。
 夏凛は店の裏に回り、音を立てながら階段を登ると玄関を激しく叩いた。
「兄さま、助けてぇ〜!!」
 反応がない。
「兄さまぁ〜っ」
 ややあってドアは開けられ、チェーンロックの掛けられたドアの隙間から眼鏡をかけた女の子がこちらを覗いた。
「夏凛さん、なんですかぁ、こんな夜更けにぃ〜……ふぁ〜」
 そう言って女の子はチェーンロックを外してドアを開けた。
 ドアの向こうに立っている女の子はネコしゃん柄パジャマ姿を着て、ぼさぼさ頭を片手で掻き揚げながら、もう一方の手は大きなあくびをしている口に当てていた。
「ハルナ姫、取りあえず中入れて」
「ふぁ〜どうぞ〜」
 ハルナによって中に通された夏凛は、辺りをきょろきょろ見回しながら居間へと歩いて行く。
 その後をドアの鍵を閉め終えたハルナがちょこちょこと付いて行く。
「いつ来てもこの家は奇麗に片付いててホコリ一つないよね、姫のお陰だね」
「そんなぁ〜、照れますぅ」
 ハルナは時雨の本業である雑貨店の店員兼なまけもので、どうしようもない時雨の身の回りの世話役を住み込みでしている女の子で、歳のころは一〇代後半から二〇代前半らしいのだか顔立ちのせいかもっと若く見える。中学生、もしくは小学生と言っても通用するかもしれない。
 居間に着きゆったりと腰を下ろしている夏凛にハルナが紅茶を出そうと台所に行っている頃時雨は、もうもうと湯気を肌から上げお風呂場から出てきた。次に彼は身体を拭き、そのまま裸のままドライヤーで髪の毛を乾かす。
 髪の毛を乾かし終わると洗濯機に入れてあった衣服を取り出す。衣服はすでに瞬間乾燥機により乾いている。そして、着る。
 帝都の天使と呼ばれる時雨はいつも同じ格好をしている。同じ服をいっぱい持っているのではなかった。いつも同じ服を着ていたのだ。……洗っているだけマシと言ったほうがいいのだろうか?
 三階に上って部屋に行こうとした時雨であったが、その足が不意に止まった。居間の電気が点いているということと誰かの会話が聴こえて来たのだ。だが、ハルナがTVを見ているのだろうと思ってそのまま階段を上った。が……、
「どうぞ」
「うん、ありがとぉ」
 ハルナの声とは別に聞き覚えのあるブリッ子した声が……聞こえた。
「ああ〜っ!! どっ、どうしたんですか、こんな格好でしかも肩から血が出てるじゃないですかぁ〜!!」
「気付くの遅いよ姫」
 時雨の頭にある名前が過ぎった、?夏凛?。その名前が頭に過ぎった瞬間、時雨は階段を急いで降りようとして階段から転げ落ちて腰を強く打ってしまった。
 腰を打ちつけながら時雨はふらふら歩きで居間のふすまを勢いよく開けた。そして叫ぶ
「なんで夏凛がいるの!?」
「兄さま、こんばんわ」
 バスローブ姿の夏凛はティーカップを持ち上げながらにっこりと微笑んだ。その姿はまるでお風呂上りのここの住人のようだ。
 この家の偽住人夏凛の顔をあからさまに嫌な顔で見る時雨の手は、まだ、ふすまを開けたままの斜め上30度の位置で止まっていた。
「だからなんで夏凛がいるの?」
 あからさまに嫌な表情をしている時雨に笑みを送り続ける夏凛。
「兄さま、だいじょぶだったあの後」
「だいじょぶなわけないでしょ、ボク泳げないんだから!」
 そう言いながら時雨は夏凛の前の席に腰を下ろしてテーブルに腕を乗せた。時雨の表情は未だ硬い。
 そんな時雨をワザと無視するかのように夏凛はハルナに話し掛けた。
「ああ、そうだ! 姫、メイド服貸してくれないかなぁ」
「いいですよ」
 そう言ってハルナはメイド服を取りに自分の部屋へ走って行った。夏凛は作戦ミスをしたことに気が付いた。
 二人っきりになって、時雨の視線が痛いくらいに夏凛に注がれる。このまま兄弟戦争勃発になってしまうのか?
「なんで夏凛がここにいるの?」
「やだぁ〜兄さま、そんなに見つめないで」
 両手の平を頬に付け、顔を赤らめ叛ける夏凛。だが、それをやられた時雨はかなりキレていた。
「……怒るよ」
 あからさまに話の本題を言おうとしない夏凛に時雨が小さくキレた。
「ごめんなさい、言います。私がここに来た理由」
「よろしい」
「じつは……、暗殺タイプのA級キリングドールに追いかけられてて」
「……で?」
 そこへいつの間にか髪の毛をツインにまとめ、メイド服を着たハルナがメイド服を二つ持って現れた。早業だ。
「あのぉ、夏凛さん、どっちがいいですか?」
夏凛は迷わず自分から見て右のピンクの生地にフリルがひらひらしてるデザインの方を選んだ。
 そのメイド服を受け取った夏凛は着替えの為に家の奥へと姿を消してしまった。
「話が終わってない」
 そう呟くと時雨は台所にお茶を入れに行った。
 ややあって時雨が台所からお茶を持って戻って来ると、ハルナは深夜TVを観て楽しそうに笑っていた。
「テンチョ、これおもしろいですね、あはは」
 ハルナが観ていたTV番組は『まぐろのまんま』というトーク番組で、お笑い芸人のまぐろが毎週ゲストと楽しいトークを繰り広げるという番組で、今週のゲストは今売り出し中のアイドルらしく、いつも通りまぐろはゲストの女の子を口説いていた。
 時雨はお茶をテーブルに置いて座ろうとしたのだが、彼の顔は突然何かを感じ取り、険しい表情へと変わった。