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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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第6章 夏夜の逃走



 マンホールの蓋を開けるともう辺りはとっくに日が落ちて蛍光灯の光が道路を照らしていた。
「もう限界ぃ……」
 穴の中から夏凛が死相を浮かべ這い出て来た。
 下水道での出来事は夏凛にとって大冒険であり、そんじゃそこらの罰ゲームよりもこたえた。しかし、彼はプライドでそれを乗り切りついに自宅前に辿り着いたのだ。
 下水の匂いで鼻が可笑しくなってしまった。それでも自分にこびり付いた悪臭はわかる。そこで夏凛は手持ちの香水をありったけ自分に振りまいた。
 夏凛は初恋以上にドキドキしながら自宅マンションの中に入った。
 エレベーターが直ぐ面前にあるが使えない。開いた瞬間に人と鉢合わせということが十分考えられるからだ。
 人の気配を敏感に探りながら慎重に階段を駆け上がる。夏凛の住む部屋は二三階だ。そこまで人と遭わなければいいのだが……。
 夏凛の足が突然止まった。耳を澄ますと階段を降りてくる音が聞こえる。
「(なんで、階段なんか使うのぉ)」
 と頭の中で考えながらパニック状態に陥り、足踏みをする夏凛。
 二三階まではあとニ階、もう少しで、もう少しで部屋に着くというのに……。
 階段を降りる音が徐々に近づいて来る。仕方なく夏凛は二一階のフロアに飛び出した。そして、そのまま走る。別の階段まで走る。とにかく走り抜ける。
 そして、どうにか別の階段まで辿り着いた夏凛は階段を全速力で駆け上がろうとしたのだが、またも上から人の気配が!
「なんか変な臭いがするな……」
 上の方から男のぼやくような声が聞こえてきた。
 上には確実に人がいる、元来た道はまだ人がいるかもしれない、夏凛は止むを得ず全速力で階段を下りた。そして、つい恐怖心から一番下まで下りてしまいマンションの外に飛び出して来てしまった。
 パニック状態でマンションの周りをウロチョロしていた夏凛の目にあるものが飛び込んできた。それは遥か上まで続く排水用の白いパイプだった。
 夏凛はパイプを両手でしっかりと握り締め、片足を壁に掛けてゆっくりとパイプを登り始めた。このパイプを使って上まで登る気なのだ。今の夏凛は途中で人に見られた時のことまで頭が回っていない。
「おい、あれ見ろよ。誰かパイプで登ってんぞ」
「おっ、すっげ。マジで誰か登ってるよ」
 下から聴こえてきた声に夏凛は一瞬身体をビクッとさせて、恐る恐る地上を見た。するとそこには若い男が二人、コンビニの袋を片手で持ちながら自分を指差しているではないか。
「おい、よく見ろよあれ。夏凛じゃないか?」
「スカートの中カメラで撮ったら高く売れんじゃねえの?」
 下からの声に耳を傾けながら夏凛は『スパッツ穿いてるからだいじょぶなの』と思い、
「こ、こんばんわぁ〜♪  あんまり指差さないでくれぅ、他の人に気づかれちゃうでしょ〜、ね、ね、ねっ!!」
 と言って全速力で上へと登った。
 そんな必死な夏凛の姿を二人の若者は口をポカンと空けて見送ってしまった。
 必死だったことで、ついつい夏凛は屋上まで登ってしまった。
 パイプを登っている変な姿は見られてしまったが、自分が臭いということは気づかれなかった。夏凛はそれで満足だった。
 ドキドキ感で夏凛は必要以上に息が上がってしまい、肩で息をしながら出入り口までゆっくりと歩いた。
 ドアノブに手を掛けた夏凛の身体が凍りつく。
 ドアノブを思いっきり揺さぶり、引いたり押したりするが開かない。閉じ込められたようだ。
 仕方なく夏凛は登って来たパイプの所まで行き、地上を見下ろした。
 人がいないことを確認した夏凛は再びパイプを使い、自分の部屋のある階まで行くことにした。
 自分の部屋のある二三階までどうにか辿り着くことができた夏凛は安堵感でいっぱいだ。がしかし、夏凛の部屋は角部屋で、ここは正反対の位置にある角部屋の前だった。
 『コ』の字状の道を駆け抜ける。これが最後の難関だ。
 夏凛は残る全ての力を使い走った。各部屋のドアが流れるように次々と後ろに消えて行く。
 第一コーナーを見事に曲がり、第二コーナーも華麗に曲がり切った。残るは最後の直線だ。
 あと、二つドアを通り過ぎれば自分の部屋だ。という時、夏凛の部屋の手前の部屋のドアが突然開き壁のように立ちふさがった。が、夏凛はそのドアを蹴り飛ばし、部屋から出てこようとしていたであろう住人を家の中へと無理やり押し込め、自分は目にも止まらぬ早さでドアの鍵を開けて自宅へ飛び込んだ。そして、鍵を素早く閉め地面にへたり込んだ。
「ふぅ〜」 
 一息付いた夏凛は靴を脱ぎ飛ばし、お風呂へと駆け込んだ――。

 シャワーの水しぶきが白い肌の上で踊り、そのまま床のタイルまで滑らかな曲線の上を滑り落ちる。
 優美な曲線を描く体のラインから白い湯気が立ち上がり天井に水の雫を作る。
 汚れを一度洗い流した夏凛は、スポンジを手に取り薔薇の香のするボディソープを付け泡立てると、しなやかに伸ばされた指の先から肩の付け根まで柔らかに肌を包み込むスポンジをやさしく滑らせた。
「……あん♪」
 至福の時を迎えている夏凛の口から思わず甘い吐息が零れ落ちてしまった。
 その時だった、玄関付近から爆発音が聴こえた。
 慌てて、夏凛は身体に付いた泡を洗い流しお風呂から出ると、白いバスローブを手に取り急いで着替えて玄関へと走った。
「ドアが壊されてる……侵入者は!!」
 何者かのパンチが夏凛の背後から繰り出される!
 危険を関知した夏凛はしゃがみ込みそれを交わすと、すぐさま回し蹴りを放った。
 硬く鈍い音が玄関に響いた。
「硬ぁ〜い、痛ぁ〜い」
 夏凛を襲った相手はまたもやマシーンだった。
 無表情なマシーンの手が素早く腰に動いたかと思うと、次の瞬間にはハンドガンから銃弾が発射されていた。
 素早くジャンプした夏凛であったが、この狭い空間、そして近距離で放たれた銃弾を完全に避ける術はなく、鉄の弾は彼の左肩を貫いた。
 鮮血を流しながらも夏凛は飛翔し、右手で相手の頭のてっぺんに手を付き、そのまま回転しながら相手の後ろに周り地面に着地した。体操選手さながらの華麗な動きだった。
 マシーンは振り向きざまに銃を乱射したが、そこにはもう夏凛の姿はない。
 通常モードからマシーンは赤外線アイモードに切り替えたが、人間の姿を確認することはできなかった。夏凛はどこに消えたのだろうか?
 その夏凛はベランダにいた。
「今度のマシーンは、工業用じゃなくて暗殺専門のA級キリングドールか……チッ」
 舌打ちをした夏凛の表情は険しい。
 前回夏凛を襲ったマシーンは工業用上がりの中古マシーンだった。だが今回は違う、暗殺専門のA級キリングドールだ。
 マシーンは使われる用途によってその種類が違う。兵器としてのマシーンは、暗殺用や殲滅用などがあり、それらをまとめてキリングドールと呼んでいる。
  ――刹那、窓ガラスが弾け飛んだ。マシーンに見つかり発砲されたのだ。
 逃げ場を失った夏凛は次の瞬間にはベランダから地面へダイブしていた。
「行き成り撃ってくるなんてズルイぃ〜」
 マンションの二三階からバスローブ姿の夏凛が落ちてゆく――。