夕霧
11 報告
間中孝子は近所のスーパーでレジ打ちのパートをしていた。女ひとり食べていくのは大変だ。先々のことを考えると不安だらけだが、今は今日を生きていくことで精いっぱいで、そんなことを考える余裕もない。それはむしろ有難いことかもしれない、と孝子は思った。
今日も無事仕事を終え帰宅すると、郵便受けに手紙が一通入っていた。差出人は書いてないが、きれいな薄ピンク色の封筒と、美しい宛名の文字で、夕子からだと確信した。
『 間中孝子様
先日は突然伺いまして失礼いたしました
私の推測通り、母が親友の孝子さんと長く親交を続け、母にとってとても大切な人だとわかり、心からうれしく思いました
また、弟のことでは大変お世話になり、母に代わりまして心よりお礼申し上げます
あの後、その足で弟に会ってまいりました、と言いましてももちろん名乗ることなくではありますが
その際お守りを求めてまいりましたので、先日お借りしたお守りを同封させていただきます
これはぜひ、孝子さんに持っていていただきたいと思います
それからもうひとつ、ご報告することがあります
私は先日機会を得て、弟の父親の会社に就職いたしました
弟の近くではなく、父親の近くで状況をうかがい、弟を見守っていくつもりです
そしていつの日か、姉と名乗り対面できる日を迎えられたら――そしてその場に孝子さんに立ち会っていただけたら――そんな夢のようなことを考えたりしています
これからも、何かありましたらご報告させていただきます
亡き母の代わりに相談相手になっていただけましたら、心強いのですが
勝手ばかり申し上げましたが、どうぞよろしくお願いいたします 』
そして、連絡先としてメールアドレスが添えられていた。手紙よりも人目に付かない連絡方法と考えたのだろう。
孝子は早速、夕子のアドレスをスマホに登録し、返事を送った。
もちろん、大歓迎である旨の返事を。
孝子は父の裁判が結審し、正当防衛が認められた後も、あの逃げるようにして出て行った町に戻る気はなかった。もちろん、昔の知り合いとは二度と会いたくもない。ただひとり志津子を除いては。
しかし、結局のところその志津子に会うこともなかった。時おり、手紙をやり取りするだけだった。いざとなると、会おうとはなぜか言い出せなかった。志津子の後ろにあの町の人々の姿が浮かんだのかもしれない。
志津子もまた、孝子の深い心の傷を思い、会いたいとは言えなかったのだろう。そうこうしているうちに、聡を預かることになり、そして今となってはもう二度と志津子に会うことはできなくなってしまった。
聡を連れてきたあの日のあの姿が親友の最後の姿になったのだ。一晩共に過ごしたとはいえ、到底ゆっくり話ができる状況ではなく、志津子は朝一番に幼い夕子を連れ、慌ただしく帰って行った。あの時のふたりには感慨に浸る余裕などなく、孝子はその日から残された聡の世話に追われた。でも、それでもあんなことでもなければ、一生会わなかったかもしれない――そう考えれば会えただけでもよかったのだ。
手紙を読み終えた孝子は、封筒の中に入っていたお守りを、大事そうに元の場所である引出しの中にしまった。