幻影少年
美麗は二度と振り返ることなく、前を向いて歩き始めた。その顔には、今まで感じたことのない、爽やかな表情が満ち溢れていた。
兄少年の満足そうな笑顔、
「先生、これで僕はやっと先生を愛することができる身体になったんだよ」
と言って、綾香を見つめた。その表情は、強迫観念に包まれている樋口とはまったく対照的だった。
「先生、美麗の顔を見てごらん。あれが本当の美麗の表情なんだよ。そして、綾香先生の今の表情も本当の顔なのさ。僕が保証する」
そう言って、少年はさらに綾香の手を引っ張って、先ほど、樋口と美麗がすれ違った交差点の中に、消えて行ったのだった……。
( 完 )
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