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真夏の昼間は別な顔

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「なに馬鹿言ってるのさ、この痛みが暫くすると気持ちよくなるのよ」

・・“気持ちいいのですか?よかったですね”

「今夜はご主人様がチェーンを使ったプレイを御所望だわ、チェーンをオーダーして」

・・“わかりました。1メートルのチェーンを発注いたします”


いったい、これはなんなんだ・・!
理性的に考えようとすればするほど混乱し破綻してゆく。
私に聞こえない謎の声が、この部屋の中でAIと会話し、品物をオーダーしている。
しかも恐らくは、ど変態なSM趣味のマゾ女だ。

だがこの部屋に外部から入った形跡がない。
となれば、この部屋のどこかに隠れているとでもいうのか!?
半ば半狂乱になって、開けられるドアのすべてを。開けられる襖のすべてを開けて中を覗き込んだ。だがそのような変質者の影すら発見することはなかった。

であれば幽霊や妖怪の類か?
いやまだだ。そこに辿りつく前に。例えば隣室の住人が変質者夫婦でその漏れ聞こえた声にAIが反応してしまったのではないか?
そんなに毎度毎度上手く会話が成立するわけがない。
だが、となれば、いよいよ、幽霊妖怪の仕業を考えねばなるまい。
色情霊にでも憑りつかれた部屋だというのか

過去1週間の履歴についてテキスト変換してみると
やはり同じような会話をAIがしていたことがわかった。

慄きながら日々を過ごすようになった。
しかし一度便利さに慣れてしまえば、スマートスピーカーを使わない日はなかったが、私がオーダーしたもの以外のモノがやはり送られてきていた。
更に一計を案じることにした。
スマートスピーカーが声に反応した時にパソコンにつながったWEBカメラをモニターの上に挟んで室内を録画することにした。窓から侵入して来ようとこれなら必ず映るはずだ!

しかしセットして数日の間は何も異常がなかった。
だが今日戻ってみると、私のオーダーしたチャイニーズデリバリーの五目チャーハンセット以外に、革製の鞭と鉈が届いていた。
その物品から漂う何とも知れない変態性と猟奇性が、悍ましい想像を掻き立てた。

WEBカメラのファイルが作られていた。
なにかが映っているはずだ。
鬼が出るか蛇が出るか。
動画を再生して、画面いっぱいに映し出されたものを見て、恐怖のあまり卒倒した。
恐る、恐る、何が起きていたのか、まずは受け止めないことにはなにも進まない。
だが、見るのが怖い。

だがしかし。
再生ボタンを押す。

「まったく嫌になっちゃうわよ、聴いてる?」
“どうかしましたか?”
「強く叩いて欲しいっていうから、ビシビシ鞭で叩いてやったのよ。そしたらね、鞭の跡がつくと困るとか泣き出してんのよ、あいつ」
“どこか痛いのですか?”
「どうだろね」
“なにか哀しいのですか?”
「ふところはかなり 哀しくなってきたみたいね」
“整腸剤をオーダーしましょうか?”
「要らないわよ、あんたおもしろいわね」
“ありがとうございます”
「なんかこっちも頭に血が上っちゃって蚯蚓腫れが出来るほど鞭で責めたのよ、そしたら長年使ってた鞭が壊れちゃった・・」
“オーダーしましょうか?“
「そうね、そうして。」

会話の一部始終が記録されている。
驚愕すべきは、画面いっぱいに映し出されていたものが、真っ白なメイクに黒い隈取りをした・・自分の顔だった。

自分の中の全てが内側からガラガラと音を立てて崩れていくのが、いや膝は折れ、前傾姿勢で倒れ込んで、床に突っ伏したまま、驚きのあまり涙も出なかった。
私の中に別な人格が潜んでいるというのか_?
その別な人格が、変態性欲を持ったSM趣味のコイツだというのか_?
では昼間、会社に行っている私とはなんなのだ?


別な時間に録画された、もうひとつのファイルを再生してみる。
もう破れかぶれだ。
なにが出てきたところで驚きはしない・・・。
根拠のない自暴自棄な高揚感だけが先走りしていた。

映し出されたものを見て奈落の底に突き落とされた気がした。


「へへへ、おい、喋ってみろよ」
“こんにちは、お元気ですか?”
「お元気さ、お元気だとも、それよりよ。お天気はどうだい?」
“関東地方今日は終日快晴の模様です。降水確率は0%最高気温は33度、熱中症の注意が必要です””
「そうかい、そりゃぁ昨日さらってきた娘がなかなかなタマでよォ」
シィィィィィーっと歯の隙間から息を吸い込むような音を立てる。
「ケツもプリプリしてやがったから、思い知らせてやったのよォ、ついついこっちも本気になっちまってさ、何度も何度もへへへへ、楽しませてもらったさ」
“それはよかったですね”
「あぁ。それでさ何度目かに催したときにさ、シオらしく泣きやがって、殺して!って叫んだんだよ、あの娘、へへへへ」
シィィィィィーっと歯の隙間から息を吸い込むような音を立てる。

「だから殺しちまった。」

“・・・・・・”
シィィィィィーっと歯の隙間から息を吸い込むような音を立てる。
「だからさぁ、上手く処理しないとな、鉈。鉈を注文しといて」
“わかりました。鉈を発注します。”

画面に映された裏ぶれ感を放出しまくる、この全裸の男は。
私と同じ顔を持つ、この生気のない目を持つ男は。
殺人の告白をしたのか。
この部屋で。

スマートスピーカー相手に不快な音を立て、右手を常に動かし続けながら話すこの男は最後にPCのWEBカメラの方を見てニヤリと笑った。
「最高だったぜ!」
“よかったですね”

私はモニターを見ながら背後に冷たいものを感じた。
それは何かの比喩でなく、確かに触感を感じられたので振り返ると
ポタリ、ポタリと滴が落ちている。
天井から。
それには色がついていて。
天井を見上げると、白い天井にどす黒く、また赤い巨大な染みが出来ていて。
悍ましい想像が頭をもたげた。

室内の気温が40度を超えた。
今まで気がつきもしなかった腐敗臭が立ち込めた。





作品名:真夏の昼間は別な顔 作家名:平岩隆