小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

真夏の昼間は別な顔

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

https://www.youtube.com/watch?v=u9ATddPOjDI
Pino Donaggio - Dressed to Kill (1980) main title theme


まぁ世の中、便利になったもんですわ。
そのたびに人間サマは、どうだろね、馬鹿になっていっているんだろうな。
この方、これだけ人生を重ねていれば、そんなところは、よおく見てきたよな。
だいたい私が入社した時には、コンピューターなんて部屋の隅っこでひっそりとしていたものだった。だがいまじゃ社員の目の前にひとつどころか二つ三つある。ガキの頃言われたろ、テレビは3メートル離れてみないと目がつぶれる!って。そのコンピューターもいやいや触っていれば段々楽しくなるもので、ノートもボールペンも持たなくなっちまった。こんな駄文書くんだってM社のワードプロセッサー・・・こんな言い方したって若い者は知りはしない。“ワープロ”のことね。まぁ文字を書くことをしなくなった。そこで漢字は辺と作りではなくイメージになった。なーんとなくこんな感じのと思っていれば優秀なるIMEが、字面を表示してくれて、最終的には修正までしてくれる、え?そんなのオッサンのいうことさ?そうだ、いまじゃ音声入力だ。多少の訛りなんか補正してくれる。勝手にしゃべれば文字に変換してくれる。たいしたもんだ。
 昔は自分の犯したミスは自分で始末しろと口汚く「自分のケツは自分で拭け!」とどやされたものだが、機械で洗ってもらえる時代に生まれたやつらを相手にどういえばいいのかと思ってしまうよね。
 で、携帯だ。
タダの電話だった時代ですら営業マンは、「客にトイレの中まで追いかけられる!」とカンカンだったが、不通の場合にメールが使われるとなると休日も無くなった。「お前が休みでもこちとらの工場は動いているんだ!」だが、逆転の発想でメールやホームページでプレゼンを行なう輩が出てきて、そのプレゼンすらプレゼンソフトで作られていて。まだこの辺りは着いていけたが、いまじゃひとり一台のパソコンとひとり2-3台のスマホだ。昔はスマートフォンって言ったんだよ。電車の中で本なんか読むやつはいない。新聞なんか読んでいる奴はいない。漫画ですらスマホだ。電子書籍で本屋はほとんど壊滅状態だし。紙の本なんてエロ本ぐらいしか生き残らないんじゃないか・・いやいやエロこそはネットとスマホの本領か。
さてさて、でスマートスピーカーだ。
最初はスマホの外部スピーカーみたいなつもりでいたが、さにあらず。
これは現代版執事だよな。
“電気点けて“
“テレビ点けて”
いやいや“風呂沸かして”
“鍵かけて”と言えば実行してくれる。
SIRIとかアレクサとかOKグーグルとか言えば、やってくれる。
だがいいことばかりじゃない。
オウムを買っている人が“ピザを注文して”とスマートスピーカーに言ったのを、何度か繰り返しているうちに、オウムが憶えてしまった。そのうちに知らぬ間に沢山のピザが配達されて、と。嘘だか本当だか知らないが、へんてこな話だ。

そんなスマートスピーカーが我が新居にやってきた。
新居といっても築10年ほどの必ずしも新しくはない古びたマンションの一室なのだが。
転勤をきっかけに今迄の生活を改めようと流行りの断捨離でほとんど全ての家財道具を捨てて、必要最小限度にした殺風景な部屋に、昔からのコンピューターとその周辺機器が押し入れに置いてある。フローリングの部屋には簡単なちゃぶ台。
そのうえにスマートスピーカーが鎮座した。
先ずは試しに。
「音楽が聴きたいな」というと“プレイリストにある曲を再生します”
すると、お気に入りのギタリストの懐かしのフュージョンが流れ出した。
「明日の天気は?」と聞けばパソコンのモニターに明日も快晴であることが映し出される。
腹が減った。「この辺で出前のソバ屋は?」
数件の店のリストが出てきた。ハハハこりゃ便利だ。
だがネットで決済まで可能な店を探すとデリバリーのチャイニーズを見つけた。
「エビチリセットにコーラのセット」
すると“オーダーしました”続いて暫くして“メールが届きました”
「メールを読んで」・・
“オーダーありがとうございました
エビチリセット おまけのコーラのセット を1セット
お届け時間は凡そ30分後になります”
へぇ随分律儀なものだ。
そして30分後ドアがノックされ配達員がチャイニーズのセットを届けてくれた。
「また、よろしくおねがいいたします。」

こうなると独り身の初老の男が煩わしいと思う買い物など一気にスマートスピーカー任せになる。
「洗剤と、あぁ風呂の洗剤もね、いつものオーダーして」
「エビチリセットにコーラのセット、オーダーして」


いつの頃からか、不思議なものが届きだした。
気がついたのはいつものチャイニーズデリバリーが二つ届いたからだ。
ついにスマートスピーカーも、やらかしてくれたか。
機械が勝手にダブルオーダーした、と思った。
まぁ二つ来たところで別に困りもしないので食べてしまった。
正直それほど気に留めてもいなかった.

だが頼んでいないものが、納品されてきて・・・。
ロープ・・?
蝋燭・・しかも趣味系の人が使うような赤い奴とか・・・?
ここまでは悪戯と片付けようと思えば、そうですることもできたかもしれない_。
そしてカミソリ・・。
さすがにこれは怖くなった。
で、レシートを見ると、これらの品々は私のいない時間にオーダーされている・・・。
誰かがこの部屋に入っていたずらをしている。
背筋に寒気を感じた。
だって古くはなっているがオートロックのマンションだ。
誰が入ってくるというのだ。

一計を案じた。
それから一週間、室内に目立たないようにドアに向けてビデオカメラを設置した。
何者かが侵入すれば映るはずだ。
だが何も映るものはなかった。
しかしオーダーしていない五寸釘が届いた。


次の日、戻ると早速オーダーしていないチェーンが届いていた。
かならず室内でスマートスピーカーが何者かと会話しているはずだ。
今度はその履歴の音声ファイルを再生してみた。

するとなんということだ_・・・スマートスピーカーの声だけが聞こえてきた。
午後2時20分です。
“大丈夫ですか?”
“痛くないですか?”
“救急車を呼びましょうか?”
“気持ちいいのですか?よかったですね”
“わかりました。1メートルのチェーンを発注いたします”

・・・いったいなんなんだ、これは?!

スマートスピーカーのAIは確かに誰かと会話している。午後2時20分に。
はたしてAIがどのような言葉に・・・もしくは音に反応したのか?
「履歴ファイルをテキストで表示してくれ」・・・“少々時間をいただきます。”
“テキストファイルをPCのモニターに表示します”

午後2時20分です。
「あぁ、とてもつらいの」

・・“大丈夫ですか?”

「その時は気持ちいいんだけど、後になると痛くなって、熱くない蝋燭だって火傷してしまうわ」

・・“痛くないですか?”

「痛くないですか?ですって?痛いわよ。とても痛いわ」

・・“救急車呼びましょうか?”
作品名:真夏の昼間は別な顔 作家名:平岩隆