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短編集33(過去作品)

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 と感じた瞬間に目が覚めるのだ。一体あの顔は誰だったのだろう? 不思議な気持ちだけが、目覚めを気持ち悪くする。
 だが、今は少し分かったような気がする。今目の前にいる男の若い頃のようである。今の私が目の前にいる男の悩みや話を聞いているのだ。それも淡々と……。
 確かに私はあまり興奮する性格ではない。クールといえばクールなのだが、それも無意識にストレスを溜めないようにしようという気持ちが働いているからである。
 それはかなり前から自覚していた。小学生の頃から、
「お前は冷めてるからな」
 と、よく友達に言われ、
「そんなことはないよ」
 と言い返していたが、その頃はそんな自分が好きではなかった。何となく友達の中に入っていけない自分が嫌だったのだ。
 しかし、中学になってから少しずつ変わってきた。確かに孤独は好きではない。だが、
――個性と思えばそれでいいではないか――
 と思うようになれば気も楽になり、
――人が何と言おうと、俺は俺なんだ――
 と、言い聞かせていた。それからだろう、私が自分の性格を好きになり、把握できるようになって行ったのは……。
 そんな私が夢の中で一人の男の話を聞いている自分を夢で見ている。きっと聞き手の男が自分であることは、顔が見えないまでも最初から分かっていたに違いない。顔が見えた瞬間、驚きがあったが、それは普段見ることのない自分の表情を目の当たりにしたからで、しかも暗闇から浮かび上がる顔である。不気味に感じてしまっても、それは仕方のないことだ。
 私が目の前にいる男をじっと見ていることに気付いたのか、
「あの時から私は、ここにずっといるのです。きっと、あの時の人に会えると思ったからでしょうね」
 今日私の顔を懐かしそうに見ているのは、私がその時の相手だということを確信したからだろうか? それにしても私だけが年を取っていないというのも変な話である。
「私はここに毎日来ているので、こんなに年を取ってしまいました。でも、あなたは一年に一度ここに来られるんですから、まだ若いままですね」
 夢の続きを見ているのだろうか? しかし男が話す内容には説得力がある。信じられない出来事のように思うのだが、信憑性を感じるのだ。
 男は続ける。
「ここは年輪のようなものなんですよ。一年に一度会いたいと思った人に会うことができる。最初、私はここに一年に一度だけ来ていました。私が相談していた人は毎日来ていたようです。そのうちにその人が来なくなって、今度は私が毎日来るようになった。この間まで定期健診で来ていた人とは数回会っただけだったんですが、その人も来なくなりました。そう、ここは一年という期間を自分で刻んでいることを把握できるところなんです。だから、あなたも二回目の今日は一年後に現れたんですよ」
 男はおかしなことを言う。私にとっては昨日の今日ではないか。
「一年後って、一日後の間違いではないんですか?」
「いや、ここでは一年後なんですよ。間違いなく最初に見たあなたの一年後を見ているんですよ。私も最初指摘された時はびっくりしましたけどね」
「私には信じられない」
 と言葉では言ったが、果たしてそうだろうか? 混乱してはいるが、それは頭で理解しようとしているからだ。
 いろいろと思い出してみると、確かに一年前だったように思う。なぜならこの一年間のことを思い出そうとすれば、何となく思い出せるからだ。
――ないはずの一年を思い出すなどというのは、何と気持ち悪いことなのだろう――
 男に見つめられていると不思議と一年を思い出せる。
 昨日――、いや一年前にここで見た夢、私は今それを思い出している。暖かい空気を感じたかと思えば、花の甘い香りが漂っている。甘い香りに誘われて入り込んだ世界にあった切り株で見た年輪……、あれはまさしく、男の言う「年輪」なのだろう。
――そうだ、あの年輪は太い部分と細い部分があったな――
 光の当たり具合で成長が著しく違っている。当たり前のことだが、夢の中で一番感心したことだった。
――人生も同じ、一年という単位でも、随分と違うんだ――
 と感じていたはずだ。
 それがどんな意味を持つのか分からない。男が相談していたという男には分かっているのだろうか。
 今まで見てきた夢を、この部屋にいると思い出すことができる。
 この部屋が私を呼んだのだろうか? まるで何かに引き寄せられるような思いがあったように感じるのは今だからに違いないが、見てきた夢はすべてここに繋がっている。それは間違いなさそうだ。
「これで私の役目は終わりましたね」
 と男の声が聞こえた。目の前の男が言ったのだが、私はその言葉にも記憶があるのだ。
 目を瞑って考えていたが、夢で見た私の言葉ではないだろうか?
 そう思って目を開けると、さっきまで目の前にいた男は消えていた。
――もう会うこともないんだろうな――
 私が存在している以上、彼に出会うことはないような気がする。もし、彼が私と会うとすれば、それは私ではない私……。そんな気がして仕方がない。
 私はゆっくりと待合室を出た。表は明るく、まるで初めて表に出たような気持ちだ。眩しい日の光を浴びて、爽やかな気持ちで仕事に向った。
 会社で、まず洗面所で顔を洗いたかった。スッキリさせたいという気持ちが一番強く、冷たい水で目を覚ましたかったのだ。実際に水は冷たく気持ちよかった。すっかり目が覚めてきて、鏡を見ながらハンカチで顔を拭いていた。
――そんなバカな――
 鏡に写った顔を見て私は一瞬動けなくなった。写っているその顔は病院の待合室にいた男の顔ではないか。ビックリした私は事務所に入らず、そのまま病院に引き返していた。
――確かここを曲がれば――
 と思って曲がるが、そこにあるのは、だだっ広い空き地だった。空き地の前に立ちすくむ一人の男、まさしく夢を見ているようだ。
 男が振り返った。その顔は私の想像どおりだったのだ。
――やはりこれは夢なんだ――
 と感じたのは、男の顔が自分の顔だったからだ……。


                (  完  )








作品名:短編集33(過去作品) 作家名:森本晃次