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のしろ雅子
のしろ雅子
novelistID. 65457
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未生怨(みしょうおん)上巻

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 その形相は正夫に叩かれ赤く腫れていたが、左顔面血だらけの正夫に恐れをなし、正夫が手を放すと赤土に足をとられ一度二度転びそうになりながら逃げ去った。
 身動きが付かないまま立ち尽くしている祈之に
「祈ちゃん大丈夫?」と声を掛けた。
「まーちゃん…血…」怯える祈之に
「大丈夫だよ」と正夫は答え、
Tシャツを脱ぐと溢れ出る血を拭うように傷口に押し当てた。そして樹にしがみ付いて所々掠れたように汚れた祈之の制服を見ると、堀に下り、ちょろちょろ流れる水でTシャツをすすぎ器用に口にくわえると、身軽によじ登ってきて祈之の制服を拭いた。取っ組み合った時切ったのか手の甲も青く腫れ血が滲んでいた。血の止まらない目の上にシャツを押し付けると「祈ちゃんお出で…」と歩きかけた。
「まーちゃん…手繋いで…」
訴えるような祈之の声に振り返り、土と血で汚れた手をシャツで拭い
「手だけ…洋服汚れるから僕に触っちゃ駄目だよ…」祈之を引っ張るように歩き出した。
 口を真一文字に結んで泣くまいと堪える祈之を見て「祈ちゃん」と優しく笑いかけると、見る見るうちに涙を膨れ上がらせた。
 この事件は誰にも知られず、二人は言い合わせたように「不倫の子」と言われた事は一切口にしなかった。そしてそれから事あるごとに“まーちゃん強いね”と祈之の尊敬をかった。祈之にとって自分を庇って戦う強い正夫は信頼を超えた憧れのようなものがあった。

               ღ❤ღ