短編集32(過去作品)
彼のことを思いながら、喫茶店の中であるにもかかわらず、誰に憚ることもなく大声で談笑している同じくらいの年の女の子を見ていると分かってきた。
世の中をすべて二つに分けて考えてきたのだ。
善と悪、明と暗、裏と表、さらには、長所と短所……。まるで数式のようにすべてを当て嵌めようとしていた。実際に今まで当て嵌まらなかったことはない。彼にしても、談笑している彼女たちにしても私からすればすべてどちらかに当て嵌まるのだ。
では、一体何に引っかかっていたのか?
それは自分である。肝心要の自分が、そのどちらに当て嵌まるか分からない。当て嵌める気持ちもなかったのだろうが、時々我に返って考えてみると自分という人間が分からなくなる時があった。きっと当て嵌めようとしても無理なのを、強引に当て嵌めようとしたからだろう。
そのことに今まで気付かなかったのだ。
彼と出会って教えられた最大のこと、それは、
――別にすべてを二つに分類する必要などない――
ということだったのだ。
一緒にいる時のことを思い浮かべる。
――自分が分かっていないから引っかかっていた――
そのことを彼に教わったのだ。
もう迷うことはない。私は彼が好きなのだ。愛しているのだ。
なぜ分かったかって?
それはきっと、彼の瞳の中にいる自分を見つけたから……。
( 完 )
作品名:短編集32(過去作品) 作家名:森本晃次