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タイトルは終わってから考えます

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「プロデューサー代行様に」
と彼は言いながら洋酒のグラスを傾けた。
その横でボクはつられるように自分のグラスを持ち上げる。
喉を越した酒は火のように熱く、いつもビールしか飲まないボクにはとんでもない刺激だったので、思わずむせて咳き込んでしまってから『幼く見えたかな』と少し後悔した。
で、彼はと言えばおっさんが背伸びする子供を眺めるような生暖かい視線をボクに送りやがっている。
そう、概ねボクの予想したとおりにだ。
眉根を寄せながら「乾杯」と呟いてみた声が掠れた。
多分、このグラスの中にマッチを投げ込んだなら火柱が起きることだろう。
「馬鹿にしてるのかな」
とボクは呟いた。
すると彼はふむと鼻を鳴らして、
「そうだとも言えるし、違うとも言えますね」
と答えた。
「残った敬意は立場への?」
ボクはそう尋ねた。
彼は臆面も無くこくりと頷いた。
「あなたが現場責任者だから従うまでだけど、メロディは本当に凡庸だと思いました。あんなメロディしか書けない人にドラムを叩けって言われても、そりゃ叩きますけど、『つまらない人だなあ』と思われるのは仕方が無いことだと思いませんか」
そしてそんな風に続けてくれやがる。
だけど、ボクには言い返す言葉がない。
何しろ彼の言うことは不遜でありながらも真実で、ボク自身が目を背けてきた『ここ最近の自分が音楽に向ける姿勢の中にある欺瞞』そのものを射貫いていたからだ。
なので――――ボクはそんな思いを振り払うために、とりあえずかぶりを振るしかなかった。
「分かった分かった、分かりましたよー、だ。確かにやっつけ仕事だったことは認める。この業界も飽和して斜陽だしね。数をこなすしかないんだ。食べていくためにはさ。販売の構造も変わってしまったし、もうひとつの楽曲でミリオンセールなんて時代でもなくなった」
「だから情熱を傾けても無駄だと?」
卑屈なボクの嘆きに、彼はそう尋ね返した。
その声が瞬間、びっくりするくらい真面目に響いたので、思わずボクは彼を見返した。
するとさらに驚いたことには、彼の目は声以上に真面目な光を帯びていたのだ。
それこそボクが瞬間、どこか心の奥で竦みすらするかのように。
「分かってるんだろう?あなたも」
だからボクはそれを受け流すかのように、そう言葉の切っ先を逸らすよう試みた。
しかし彼は強くかぶりを振った。
「あなたこそ、賢いふりをしていますよね。本当のあなたはもっと愚かで、そんな事情は酌みたくもないと思ってる」
はあ、と言いたかった。
『馬鹿にしている』と目を見開いて、彼のことを見下したかった。
だけどその瞬間、ボクの脳裏に帰ってきたのはさっきの彼のプレイだった。
瞬間で魂を鼓舞するリズムというものがあるとすれば、あれはまさにそうだった。
「あのアホなギターソロ」
彼はそう呟いた。そして、グラスを傾けて中身を一口ぐびりとあおった。

――――ボクは自分がさっきギターを抱えてかき鳴らした瞬間を思い出した。
そして、けっしてアルコールのせいではない熱が顔からほとばしりそうなのを感じた。