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タイトルは終わってから考えます

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と返事をしたのは、
言うならばプロポーズよりもボクの人生にとって真剣な決断への、
あまりにも軽々しい浮ついた一歩だった。

でもその一歩は、それまでのボクの人生が地図だとするならば、
投げ出して風に舞うのを眺めるかのような、諦観に似た思いとともにあった。

なのに、ボクの手の中には新しい地図が握り込まれているのだ。
しかもそれは知り合ったばかりのペテン師から渡されたもので、
おまけに道筋すらろくに無いくせにど真ん中にはバッテンがデカデカと付けてあるのだ。

『そこは宝の山だ』とペテン師は言う。
根拠もないままに胸を張って言う。
『ともに征け』と彼は言う。
頷いた以上ボクはそこに向けていくしかないのだが、不安しかないのに、
微笑みは胸の深いところからとめどなく湧き上がってくる。

ミュージシャンというのは生業としてどこかそんなところがあるのかも知れない。
みんな本質的に山師なのだ、きっと。
どんなに自分だけは違うと思っていても、うらぶれて伏してみたつもりでいても、身につけた常識なんてちょっとした弾みで簡単に吹き飛んでいってしまう。
忘れたつもりだったのに、気づかない振りをしていたのに、彼はそれを許してくれなかった。
彼はボクの返事に微笑んだ。
その微笑みは、ボクよりもずっと年上のはずの彼が、ボクよりも幼く見えるようなやんちゃな何かを含んでいた。
だから、ボクは手元のグラスをひっつかみ直し、中身をぐいと一息であおった。
喉を焼くアルコールをねじ伏せながら、タフな道行きになるだろうなと思っていた。
くらりと目の前が揺らいだが、胸の真ん中に力を込めるつもりで気持ちを立て直した。
そんなボクの一連を見て彼がはっはと声を上げて笑った。
ボクはそんな彼に向けて、精一杯の強がりで口の横を無理矢理にひん曲げて笑顔を作ってみた。

彼となら、バカみたいな夢が見られるのかも知れない。
ずっと昔にどこかで忘れてきたような、漫画雑誌ですら今時載せないような物語が刻まれた極色彩の夢が。

――――ボクの視界の端で彼が笑っている。

ステージの上のボクたちと、
空へと放たれるようなメロディと、リズム、
狂おしく求める観衆の歓声と、
もうもうと湧き上がる熱気。

多分アルコールの影響で回り始め揺らぐ視界の中で、
束の間ボクは、
世界がボクたちを呼ぶ声を聞いた気がした。