短編集31(過去作品)
しかし、実際二十歳を過ぎてみても自分が大人になったようには感じない。確かに大学を無事卒業し、就職して社会的には大人として見られていても、自分で何か納得できないところがある。仕事を始めれば、言い知れぬ不安のようなものは薄らいでいた。目に見えない不安に苛まれていた大学時代。それは、いずれ訪れる社会の荒波に感じていたものだった。無事就職し、曲がりなりにもまともに仕事ができているのだ。その中での不安があるとしても、実際に社会に出てからの不安に、言い知れぬものはない。まだ怖いもの知らずだからかも知れないが、言い知れぬ不安を引きずるようなことはもうない。そういう意味での大人にはなっているように思うだけだ。
こと女性関係に関しては、まだまだ大人になりかけていない。まわりの女性が皆大人に見えるというのが一番の理由だが、もちろん自分から声を掛けるなどできるわけもなかった。
そんな時、誘われた風俗店、私は最初に出会ったまいに夢中になり、またまい以外にも夢中になる……。
――結局、身体と気持ちは別々なんだ――
結局、綺麗ごとをいっても、男としての性には逆らえない。私は自己嫌悪に陥っていた。
――私は、誰でもいいのだろうか――
そんな思いが頭をよぎって離れない。
しかし、今日も足は店へと向う。店には私を引きつける何かがあるのだ。
部屋に入って、
――以前にも感じたことがある――
という思い、それを思い出そうとしているように思えて仕方がない。
私はそれを探しにいっているのだ。頭に浮かんでくる公園のベンチに座っている自分。それこそ、店に向おうと期待に胸を躍らせている時に感じる思い。中学時代に感じた香水の香りが今から向かう部屋にあるのだ。
「あ、う……」
すべてを出しきってしまい、恍惚に身体が震える時、私は、自分の理想の女性に出会い、大人になった自分を感じることができるのかも知れない。
そう、あの部屋には、中学時代に感じたのと同様、「大人になった自分」に会いに行っているのだった……。
( 完 )
作品名:短編集31(過去作品) 作家名:森本晃次