隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
暫くすると、愛音が店に入って来て、少し店内を見渡した。その時、恵美莉と一瞬目が合った。
「ああ。パパなら奥だよ」
店のおばちゃんが愛音の顔を覚えていて、博之の居場所を教えた。それを聞いて博之は、座敷から顔を出して手招きした。
「ねえねえ、おばちゃん。パパってどういうことなの?」
恵美莉が不思議がって、おばちゃんに尋ねた。
「いやね、おばちゃんもよく知らないんだけどね、あの子、木田君のこと、パパって呼んでるのよ」
「ええ? 30代ぐらいじゃない?」
「親子ってことないと思うけどねぇ」
「前に会った時、まだ子供いないって言ってたのに」
「でしょう。だから愛人かと疑ってたけど、今日は奥さん連れでしょ」
「まさか、奥さんと愛人の話し合い!?」
「それはないだろう」
旦那も口を挟むと、
「聞いて来よう」
恵美莉は、席を立った。
「やめろって」
旦那が止めると、
「お母さん、みっともないからやめて」
娘も止めようとしたが、
「ダメダメ、あいつは昔からそんなことばっかりやってて、まだ懲りんのか!」
「母さんこそ、どういう関係?」
娘がそう質問するのを聞いて、恵美莉は少し冷静になった。
「あいつは中学から高校まで、優柔不断で危ないことばっかりするし、まったく目が離せない奴だったの」
「ははは、でもよくモテたわね。おばちゃんも木田君は、カッコいいと思ってたんよ」
「確かに。でもお母さん、あいつに惚れられてた時あったのよ」
それを聞いて旦那と息子は無表情になったが、娘は嬉しそうに笑った。おばちゃんも笑いながら、
「そうよね。あんたたち、姉弟みたいだったの覚えてるわよ」