隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「映画に出てた方ですね。ヒロイン役の?」
「違うよ。暴れ役の方だよ」
博之が茶々を入れると、
「君が騙してやらせたんでしょ!」
博之は高校時代に自主制作として撮影した映画に、恵美莉にほんのチョイ役だからとウソをついて、ドタバタ喜劇に出演してもらったことがあった。恵美莉はそのことをいまだに根に持っている。
博之は以前会ったことのあるご主人に、軽く挨拶をした後、彼らの息子と娘にも声をかけた。
「こんにちは。ここ(お好み焼き店)のおばちゃんから、お兄ちゃんもう大学卒業だって聞いたよ。この前会った時は、幼稚園だったかな? 妹さんは初めましてだね」
「優姫(娘)は大学受験中よ」
「じゃ、今追い込みで大変でしょ。うちの娘も中学受験でピリピリしてっから、解るよ」
「将生(息子)の方が大変なのよ、就職先がまだ決まらなくって」
「へ? 何学部?」
「文学部です」
「小説家目指して、出版社に入りたかったみたいだけど、そんなのじゃ、いまだに就職先も見つからないわ」
「そうなの。恵美莉の趣味(小説の執筆)受け継いでるんだね。もし3月まで就職が決まらなかったら、うちにおいでよ。うちの会社、イベント企画がメインの会社だけど、ビジネス企画も色々やってるから」
博之は本心から、そう言って誘ってみた。
「キッドの会社になんか行ったら、何させられるか分からないわよ」
と恵美莉は冗談ぽく言ったが、
「はい、ありがとうございます。ご機会をいただければ、一度ご説明を伺いたいと思います」
将生君が畏まって言ったので、笑いが噴出した。
「これは相当就職活動慣れしてるな。気楽に考えて、志望先が決まらなかった場合の、最終手段と考えてくれたらいいから」
博之と知子は恵美莉の家族が座る席を離れて、奥の座敷に移動した。