隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第22章 キッドとエミリ
仕事収め、ようやく年末休暇に入った。博之は小原との個人的な付き合いは、なるべく遠慮していたので、休暇中に会うということはない。秋日子は相変わらず冬期講習で、朝から塾通いだ。夫婦だけで家にいるのも久しぶり。
愛音は拓君と別れたいものの、事態に進展はなく、よく知子にLINEで相談していた。そのメッセージのやり取りを博之も見ているうちに、3人で会おうということになった。場所は『お好み焼き 千石』で。
博之が店の近くの公園駐車場に到着した時、愛音の車はなかった。
「まだ、来てないみたいだな。電話してみる」
「私がするわ」
知子はすっかり愛音と仲良くなったようで、話をするのが楽しいらしい。博之は運転席で長電話の内容を聞いていたが、どうやら愛音は、車では来ない様子だった。
「迎えに行こうか?」
「・・・ちょっと待って。もう近くまでタクシーで来てるみたい」
「じゃ、店で待つから、そう伝えて」
博之はエンジンを切って、車を降りた。知子は電話を切ってから、電話での様子を博之に伝えた。
「やっぱり、拓君が送ってくれないからじゃない?」
「そりゃそうだろうけど、自分の車で来ればいいのに、妊娠中だからビールも飲まないだろうし」
「そうよね」
博之は暖簾をくぐり、いつもの通りおばちゃんに挨拶しようと、元気に店に入った。
「こんにちわー!」
「ああ!!! キッド!」
中央のテーブルで、お好み焼きを食べていたのは、中学時代から友達の恵美莉の家族だった。彼女は当時の博之に『キッド』というニックネームを付けていた。
「うっわ。久しぶりー」
「本当、久しぶりね。あ、こんにちわ、初めまして、菅生です。奥様ですか?」
連れの知子に気付き、立ち上がって挨拶する恵美莉に、知子も会釈しながら、
「どうも初めまして。高校の同級生の?」
「そうです。中学からです」