隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第21章 延長決定
翌朝、愛音は6時に拓君を起こした。彼は8時頃起きて、勝手に出勤して行くのだが、この日は出勤前に昨夜の騒動のことをしっかり話しておかないといけなかったから。
「ちょっと、拓君。起きて」
「ぅう、・ζ・な・ξ・・に?」
拓君は、眠そうに呂律が回っていない。
「寝ぼけてないで、しゃんと起きて」
「ちこ<? 今なんι″」
「まだ6時だから。ねえって! 起きてください!」
「うん。どうしたの?」
ようやく目を開けた。
「昨日のこと覚えてる?」
「? へ」
「『へ』って何よ? 酔っぱらって帰って来たこと、覚えてるでしょ」
「・・・はい」
「車ぶつけたことは?」
「・・あ」
「『あ』って何よ? 飲酒運転でぶつけたでしょ!」
「・・・ごめん」
「んっもう! 起き上ったらどうなの」
拓君はノロノロと上体を起こして、蒲団の中に足を伸ばしたまま、両手を後ろに着いて座った。
「何? その態度」
拓君は両手を着くのをやめて、蒲団の上にあぐらをかいた。
「正座でしょう」
「そんなに怒んないでよ」
「怒ってません。呆れてるんです」
愛音は目はそのままに、無理に口元だけ笑顔で言った。
「ごめん、車どうなったんだっけ?」
「自分の目で確かめたら?」
拓君は立ち上がり、縁側の掃き出し窓から車庫の方を見た。
「そこからじゃ見えないわよ」
拓君は何も言わず窓を開け、沓脱石に置いてあった古いサンダルを履いて、
「寒っ!」
そして背中を丸めて車庫に近付いた。そして呆然と立ち尽くした。
「見た?」
「・・・・・・」
「どうする気?」
「会社どうやって行こう?」
すごすごと戻って来る拓君。
「ええーと。保険で直せる?」
「誰の保険よ?」
「車の保険で」
「私が払ってる保険でしょ! 拓君が事故した時のためだったけど、飲酒運転してぶつけた時のためなんかじゃないわよ」