隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
拓君が相変わらずも、愛音の自宅に仕事から帰って来た。愛音が彼に買ってやった、日産エクストレイルは大きく、古い家のガレージは小さかった。
ガシャン!
車のテールランプ部分が、車庫のコンクリートの柱にぶつけられた。鉄筋コンクリートでつながる母屋でも、震度1ほどの揺れを感じるぐらいだ。愛音はその音を聞いて、玄関から飛び出して来ると、拓君がもう一度駐車し直そうとしているところだった。
「もうちょっと左に切って、まだだって、まだまだ! そのまままっすぐ、一回前に出て! ・・・前だって前! 縁石に乗ってる・・・きゃー!」
ダッーン!!!
前輪がガレージ横の通路の縁に当たって身動き取れず。なのに拓君がアクセルを吹かしたので、車体はそれに乗り上げ、大きく上下に揺れて、再び柱に激突した。側にいた愛音は轢かれるかと思い、大声を上げてしまった。
「もう、な、何やってんのよ! 気を付けて!」
拓君はようやく駐車出来て、何食わぬ顔で車を降りて来た。
愛音は、ヒビが入った柱と、凹んで外れたバンパー、そして散らばるランプの破片を見て、溜息を付いた。それを横目に拓君は、鞄を抱えて素通りしようとした。
「ちょっと、何か言うことはないの!?」
「うん。ゴメン」
「ゴ・メ・ン・じゃ・な・い・でしょう!」
力を入れて愛音が言ったが、
「中入ろう。寒いよ」
愛音は呆れて、物が言えなくなった。その後どうする気だろうと思いながら、先に家に入った拓君の後を着いて行くと、ある臭いに気が付いた。