隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
博之は期待していたものの、やっぱり無理だろうなと落胆もした。今まで博之は何をやっても最後はうまく行く、結果は自分の満足の行くものになると信じて生きて来た。そうすることで諦めず、前進する力が沸いて来たからだった。しかし、今回は運を天に任せるというより、小原の強い意志に頼るしかなかった。それは今までの人生で初めて、人の力にすがる思いである。しかもその思いは、仕事上の安心のためではなく、一人の女性への好意と、彼女と一緒にいられる期間が、少しでも延長されるという期待に対してのものであると、認めざるを得なかった。
「私、あの係長と一緒に送別会してもらうの、イヤですから」
「あ、そういう理由?」
「秋日子、冬期講習はどうだ?」
「うん、余裕余裕」
料理が並べられた食卓で、ビールを運んで来た娘に、博之が話しかけている。
「グラスも持って来てよ。余裕ってどういうこと?」
「もうテストも80点くらい取れるし、作文も書き方が分かって来たから」
「模試の結果が良かったからって、安心してちゃダメだぞ」
「分かってるって」
「でも、朝から集中特訓じゃ、疲れてるだろうな」
「うん、帰る時、足がダル痛ーくなってる」
「ちょっとストレッチなんかしながら、勉強しろよ」
「そんなこと出来ないよ」
「なんで?」
「ずっとテストしてるんだよ」
「そうなのか?」
「午前中に文章題60分やって90分の作文訓練で。お弁当食べたら、昼からは90分テスト、120分解説。解説が遅れるから、休憩時間なんか適当にしかなくって」
「それ大変だな。本当の受験生じゃないか」
「受験生だし。パパ、何だと思ってたのー?」