隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第19章 試合放棄と延長戦
「え? 有給?」
デスクの周囲に人がいたので小さな声で聞いたが、博之は丸川の言葉に耳を疑うほど驚いた。
「10日残ってますので」
「いやいや、1月20日までは、来るって言ってたよね」
「退職の期日が1月20日ですから、それまでに有給消化します」
「突然に、何言ってんの? その日以降に有給買取じゃダメなのか? それまでに君に頼んだ引継ぎとかはどうする気なの?」
「もう木田部長が引き継いでるんで、必要ないですよね。僕から上司に教えることなんてないですし」
「・・・そうか。分かった」
博之は怒り爆発しそうだったが、こんなバカにもう会わなくてもいい方を選択することで、なんとか気持ちのバランスを保った。
「部長、やっぱり係長は無茶苦茶でしょう?」
丸川に聞こえないように、藤尾が言った。
「代わりの人って、すぐ来るんですか?」
「いや、今、社長が伝手を当たって、探してくれてるから、もう少しの辛抱だ」
「こんな状態が続いたら、パートさんも辞めそうですよ」
「そうならないように、前向きな話をしよう」
「岩瀬も心配してて、暗いですし」
「確かに今のメンバーだけじゃ課題は多いな。でもな、言い方を変えれば、リーダーさえしっかりしてたら、もっと早くチームが纏まってたはずなんだ。だから、これからは一気に前進するから、安心しろ」
「それで、有給を承認したのか?」
「はい、仕方なく」
社長も苦虫を潰したように、とても、社員には見せられないような表情をしている。
「来年は、一日も出勤しないそうです」
「それじゃ、まるで試合放棄だな。うーむ。でも、有休を希望されたら、やらんわけにもいかんから辛いとこだな。離職票にボロクソ書いてやろうか」
「本当ですよ」