隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「愛音さんのお母さんの写真はないんですか?」
「持ってないよ、そんな写真。愛音の家に行った時、遺影を見たけど、げっそりしちゃってて、昔の面影はあまりないから」
「若い時の写真も、残ってないんですか?」
「一枚だけ持ってたんだけど、もうどこ行っちゃったか分からない。しかも、俺も子供だったんだな、先生の部分だけ切り抜いてたんだ。だから小さくて余計に見つからないな。生徒手帳に入れてたはずなんだけど」
「愛音さんに貰えばいいじゃないですか」
「そんなこと頼めるか!『お母さんの写真ください』って」
「ははははは」
「ったく。あ! もうこんな時間だ。まだ残業しないと」
「あ、またお邪魔してしまいました。それじゃ、お先に帰ります」
「ああ。ご苦労さん。また来週、ラスト一週間な」
「はい、それでは、よいクリスマスを」
「メリークリスマス」
「パパ、プレゼントありがとう」
「ああ、今までちゃんと父親らしいことしてないからな」
愛音が申しわけなさそうに、レジで支払いをする博之に礼を言った。普段ならもう少し堂々としているのに、遠慮がちなのは、そこに知子もいるからだ。
「そうよ、愛ちゃんも遠慮しないで、甘ちゃえばいいのよ」
「いえいえ、私なんか面倒掛けるだけですから」
「何も面倒なことなんかなかったさ。でも、そのコートは高かったけどな」
「ごめんね。もっと安いのでよかったのに、こんな高いのばっかり選んでくれるから」
知子が欲しいと言っていた流行のコートを、博之は愛音にもプレゼントするために、人気ブランド店に3人で来ていた。博之が二人分の紙袋を抱えて店員に見送られ、3人はその店を出た。
「俺はもっと派手な色がいいと思ったんだけど、この色は地味じゃないか?」
「何言ってんのよ、ベージュのカシミアはどんな服にも合うから、こっちの方がいいのよね」
「はい、あんまり服持ってないから、どうしても無難な色にしちゃうのかな?」
「なんで? 知子が水色買ってんのに。今なら、イメージチェンジするチャンスだろ」
「そうかも知れないけど、赤は無理! もう私も若くないから」
「まだ、イケる。頑張って次の男を探せ!」
「あなた。もう、何言うのよ。今はそんなこと考えられないでしょ。ごめんね、愛ちゃん。この人はすぐ次に行く人だから、何度泣かされたことか。(笑)」
「嘘つけ、そんなことしてないだろ!」
「まあまあ、パパ。私、妊娠中ですから。大人しくしとかないと」