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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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 その晩、博之は小原を連れて、城下町にある『牡蠣小屋』に行った。小原はいつもビールをたっぷり飲む。博之はビールでは酔えないので、ワインを飲む。その店にはその両方が取りそろえられているし、この辺りは、二人それぞれの家から、ちょうど真ん中ぐらいに位置しているので都合がいい。店は平日とは言え、裸電球の明かりが活気を演出するのか、いつも会社帰りのサラリーマンで賑わっていた。

「そんなDVとかってよくあるか?」
「割とあると思いますよ。男性って、いい年して子供みたいな人ばっかりですもん」
 小原とはいつも下世話な会話が多い。しかしそれを上手に面白く話すのは、彼女が前の会社にいた時、20歳のころから2〜3年間、深夜にキャバクラでバイトしていたという経験がものをいうからだ。
「俺はそんなことしてると思う?」
ワイングラスを口に当てたまま、聞いてみた。
「いやぁ、木田さん結構、厳しいタイプですよね」
「厳しいけど手は出さないよ。殴ってやろうかと思う男は多いけど」
ワインを一口ぐいっと飲んで答えた。
「女性殴ったことないですか?」
「うーん。実は一回ビンタしたことがある」
小原はビールジョッキを持ち上げた手を止めて、
「え? ダメダメダメ。絶対ダメですよ。奥さんにですか?」
まさかの告白に、目を丸くして本気で驚いているようだ。
「いや違う。昔付き合ってた彼女。そいつ隠れて大麻吸ってたんだ。それが分かった時、怒らなきゃと思って」
「それならセーフです」
安堵の表情でトーンダウンした。店は混雑していて騒音が大きいので、こんな会話を普通の声でしていても、周囲は気にならない。
「でも、その後別れたら、周囲には俺が暴力を振るったから別れたって言われて。本当に気を付けようと思ったよ」
「そういうのよく聞きますよ。私の周りでもしょっちゅう彼氏にやられては、別れてます」
「へえ? そう? そんなもんなの?」
「女の子って、ほぼ全員やられてるんじゃないですか?」
「まさか。そんなことないだろ」
「だって結婚するまでに何人と付き合うかって、人それぞれですけど、暴力的な男性が5人に1人いれば、人生で2〜3人には殴られますよ」
「そういう小原もあるの?」
「私は幸い経験ないですけどね」
目を伏せる彼女を見て(あ、防御線を張ったな。交際相手の数を計算されないようにしたのかな?)と思った。
「そんなんで離婚した友達とかいる?」
「ちょいちょい聞きますけど、仲のいい友達にはいませんね。みんな結婚する前に見極めてますから」
「ふーん。じゃ、小原の旦那さんも優しい人なんだね」
「そうなんですけど。この前私の誕生日の時なんか、『僕と結婚してくれてありがとう』とか言って来るんですよ。もう、ナヨナヨして、何でこのタイミングで言う! て感じでしたけど」