隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第2章 美人の部下
愛音を家まで送った後、博之は自宅への道すがら、初めて彼女の結婚について真面目に考えた。3年半前に結婚した時は、愛音の幸せを願ってはいたが、ひとみ先生はもうこの世には居らず、
(一人娘の花嫁姿を見れなかったことが、とても残念だったろう)という思いばかりで、複雑な心境だった。しかも、すぐ離婚してしまって、
(先生はどう思っただろう?)と、そんなことばかり気にしていた。
今回のお相手、拓君については、彼と話している時に男同士の会話として、
「姉さん女房だけどいいの?」
と、博之がわざと探りを入れてみたところ、拓君は、
「大丈夫ですよ。自信ありますよ」
と、それは全く根拠のない軽い返答だったのが、少し気になっていた。このような返事をする部下は、ほとんど責任感のないやつが多いと、博之は日頃感じていたからだ。
(しかし、後見人とはな)先方の思いも寄らないお願いに、愛音も困り果てている。
(そりゃ、今日は拓君抜きで、相談する必要があっただろうな)と、博之はそのように事情が理解出来た。
(もちろん、愛音のためなら、保証人でも後見人でもなる覚悟はある。でも、そんな要求をする相手と、愛音自身がうまくやっていけるかな?)そのことの方が心配だった。
「その娘、愛音っていうんだけど、中学ん時の先生の娘で・・・・・・」
翌日、小原と勤務時間中のお喋りで、愛音の結婚について少し話をすると、
「へえ? その人、再婚だったんですか」
「実はそうなんだ。理由はよく知らないけど、前の時はすぐ離婚したらしいよ」
この辺は他人のふりをして、適当に誤魔化しておく。
「そんなんじゃ、相手に女がいたとか、想像以上に借金を抱えてた“クズ野郎”とかじゃないですか?」
「そんなふうには聞いてないけど、あの子もバカじゃないからな」
「好きな相手だと、最初は我慢出来るんですよ」
「だから今回は、慎重になってると思うよ。もう34歳だし」
「DVとかだったらトラウマですね」
博之はギクッとした。周囲に人もいたので、このくらいで話は止めておこうと思った。