隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
博之は、同じく出勤予定だった丸川の部下の藤尾にもかけてみた。
P・P・P・P・RRRRRRRR・・・RRRRR
「はーい?」
「もしもし、木田だけど、君、今日は出勤予定じゃなかった?」
「え?部長? 違いますよ。係長来てるんですか?」
「事務所のボードは出勤予定になってるけど、誰も来てないぞ」
「昨日、係長がやめとこうって言ってましたよ」
「え? やめとこうってどういうことだよ」
「飲み会の次の日だから、出る気なくなったからって」
「そんなこと言ってたのか? それ、おかしいと思わないの?」
「さあ? 僕は予定大丈夫なんだろうなって、思ってましたけど」
「遅れてる、遅れてるよ。今日休んだら、月曜日の仕事どうするんだ」
「僕は分からないですよ。係長が休みにしたんですから」
博之は、頭に血が上りそうになったが、何とか怒鳴るのを我慢した。
結局、その後も丸川には連絡がつかず、その他の2名では、作業が段取り出来ずに休ませるしかなかった。そして、大きな溜息をつき、椅子にもたれてドーナツをかじった。
翌週の月曜の朝、博之は当然、丸川係長に厳しい指導をしなければならなかった。丸川は朝礼の後、逃げるように黙って事務所を出ようとしたので、少し大きな声で、
「係長! ちょっと待ってくれ」
そして、一緒に事務所を出て、商談室に呼び出した。
「丸ちゃん、土曜はどうして出勤しなかったんだ。スケジュール押してるのに、納期通り仕上げる気はあるのか?」
「大丈夫ですよ。自信ありますよ」
( ぁ。 )
博之は、この軽い返事に絶望した。なぜならそれは、拓君に愛音との結婚生活について訊ねた時の返答と、全く同じだったからだ。
「一体どこからそんな自信が湧いて来るんだ?」
「出来る限りのことはやってきましたし、残業だって毎日してます。それで出来なかったら、もともと無茶な業務なんじゃないですか?」