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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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 その後、博之は集中して資料の手直しを進めていた。休日ということもあり、誰もいない事務所で、電話も皆無だった。つまり、仕事がはかどっていた。
「あっあーーー」
大きく伸びをして、マグカップのコーヒーを飲んだ。
「何か甘いものを持ってくればよかったな」
コーヒーはいつもブラックで飲むので、長時間集中して仕事をする時は、クッキーやチョコレートを摘まみながらというのが常だった。博之は食堂の自販機に、スナック菓子があるのを思い出した。
 席を立ち、引き出しの中に入れてあった100円玉を2枚持って、食堂に向かった。食堂のドアは鍵がかかっている。しかし、厨房と廊下を隔てる防火扉に付いている脱出口には、鍵がないことを博之は知っていた。そこから一旦厨房に入り、食事を提供する窓口のカウンターを、ひょいっと乗り越えて、普段食事をするフロアにたどり着いた。
 自販機には、スナック菓子の他に菓子パンも入っていた。すべて150円の値札が付いている。お金を入れて、好みの商品の番号をテンキー入力すると、その品が出て来る仕組みだ。博之はドーナツを見付けて、お金を入れた。
 それを手にして、また厨房に戻ろうとした時、すぐ横の娯楽コーナーにあるテーブルが目に入った。
(この席は、いつも小原がミーティングと称して、俺と愚痴を言い合う場所だ。もうあいつとも、20日くらいでお別れだよな。なんか、卒業式間際の気分だな。よく考えたら、あいつは勤続7年だから、小学校より長い付き合いだったんだよな。なのに、ここ2〜3ヶ月で、急に気になる存在になるなんて、ドーナツってんだ? ・・・くだらね)

 事務所に戻ると誰もいないので、丸川係長のことを思い出した。
「あれ? もう11時を回ってるのに、まだ来てないな」
 博之は、業務用携帯を取り出して、丸川の番号にかけてみることにした。さすがに休日とは言え、これだけの遅刻は容認出来ない。しかし、博之はハッと驚いた。

     PPPPPPPPP・・・PPPPPPPPP・・・

 その電話の呼び出し音は、丸川のデスクの中で鳴っていた。
「あいつ、業務携帯持って帰ってないのか。休日でも、業務連絡がないとは限らないのにな。まあ、今まで丸ちゃんには、休日にかけたことなかったから、俺も気付かなかったけど」
仕方なく、個人携帯にもかけてみたが、相手は出ない。
「何してんだよ。まさかまだ寝てるのか?」