隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「で、結婚式の話?」
「うん。そうなんだけど。私親戚がいないから、披露宴の人数が竹田家(拓君の家族)とバランス取れないの」
「そうだな。それは分かってたけど、友達多目じゃだめなの?」
「うん。それも変かなぁ?」
母ひとみは一人っ子だったので、愛音には従兄弟などもいない。実際は博之の親戚筋すべてが親族なのだが、その事実は伏せてある。今年の2月に行われたひとみの七回忌法要にも人数が集まらず、寺の住職が檀家の中から母方の遠い親戚を探してくれて、何とか二人参列してもらうことが出来た。
「その二人には、結婚式に来てもらうんだろ?」
「うん。それ以外候補者ないよ」
「俺が出るのは当然だけど、向こうの家族にしたらコイツ誰? てな感じだな」
苦笑いを浮かべる博之。
「そうなの。拓君も困惑するわ」
「拓君には打ち明ける?」
「それは・・・ううん。ダメ。死んだお母さんが許さない」
「そうだな」
愛音の表情はいつもより暗いようだ。彼女にとって、親族がいないということは、避けては通れない問題だった。
「それに拓君のお母さんは、私に身寄りがないっていうのを、かなり気にしてるみたいなの」
「気にされても、どうしようもないのにな」
「それで、身元保証人とか後見人とかを立てて欲しいみたいで」
「ええ? そんなこと言って来てるのか? 後見人ていうのは、法律的な制約があるんじゃなかったっけ? 裁判官が決めるとか」
博之は、座敷の外に聞こえないように、小声で話した。
「でないとなんか不安なんじゃない?」
「拓君の方が、よっぽど頼りないと思うけどな。あ、本音出てしまった。ごめんごめん」
「そうよね。私もそう思うけど」
拓君は愛音より4歳年下の30歳だが、今年のゴールデンウィークに初紹介されて、(コイツで大丈夫か?)と思ったくらいだ。
障子が開けられ、店の主人が、
「はいこれ」
と言ってビールを持って来た。
「おっちゃん。車だからノンアルちょうだいって」
「ああ、そうか。しまった。栓開けてしまった」
「もったいない。愛音、飲むか?」
「それなら仕方ない。私が飲みましょう」
「嬉しそうに言ってる」
店主は渋った顔で笑いながら、栓の空いたビールをテーブルに置いた。
「じゃ。これサービスにしとくよ」
「ありがとうございます」