隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「つまり、そういうこと。観念して確実にキスをされたわけじゃないんだけど、5人全員にされた」
「・・・なんという。トラウマですね」
「そうなんだ。それでやっと開放されたんだけど、本当の悪夢はこれからなんだ」
「ええー。ずっと毎日犯され続けたんですか?」
「いやいや、さすがにそうじゃないよ。でも次の日にはもう、クラス中の噂になっていて、先生からも事情聴取されたんだけど、何も言えないでいたから、特に何のケアもなく。そのうち、まるで俺の方から皆にキスしたみたいに言われて、親に知れたのかも判らない」
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その事件で刺激を受けたのか、その後、博之の自宅前には、うろちょろする女子が増えた。ヌマちゃんまでも、必死で博之にアプローチしているようだった。博之はそんな積極的な女子達が怖くなり、サッチンのようにおとなしい子が好きになって行った。でもそんなおとなしい子は、決して博之に告白などして来るはずはなかった。
6年になり、担任が定年退職間際のおばあさん先生になった。その教師は博之のキス騒動を知っていたが、何かの拍子にその事件のことで、
「子供のくせに」
と言われたのを博之は確かに聞いた。
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「これが一番のトラウマなんだ」
「ひっどい!」
「こっちが被害者なのに、よく事情も知らないくせに、そんなこと言ったクソばばぁ。今でも恨んでるよ。誰も助けてくれないで、女子達に支配されてるような感覚で、それからものすごく暗い毎日を過ごしたんだよ」
「それは、辛いでしょうね。話が凄すぎて、カクテルの飲むヒマがないですよ」
「ああ、飲んで、飲んで」
「それと、音楽の先生とどう繋がるんですか?」
二人は同時に一口、ぐびーっと飲んだ。