隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第12章 過去の告白
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小学5年当時の博之には、トンツ(俊朗)君という、幼稚園の時からの幼馴染がいた。トンツ君が同じクラスのサッチン(幸代)のことが好きだと言ったので、博之はあまり目立たないサッチンのことをよく見ると、意外に可愛いことに気付いた。サッチンとよく一緒にいる仲良しには、ヌマ(沼田)ちゃんという子がいて、ヌマちゃんは博之に気があるというのは、皆も薄々勘付いていた。そして彼女らとは自然と一緒に遊ぶようになり、仲のいいグループになっていった。
そのうちに、カナコという女子が、そのグループに割って入って来た。カナコも博之のことが好きで、博之の自宅の前をうろちょろしたり、博之が見ていない時を狙って、博之の後姿に手を振るなどする姿が、目撃されたりしていた。そんなカナコを博之は苦手と思い、なるべく避けていたのだが、カナコにとって、博之とヌマちゃんがいつも一緒にいるのは、我慢出来なかったのだろう。
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「思春期ですね」
「それだけなら良かったんだけど。学年にマキコっていう女番長がいてさ。そいつとカナコが仲良かったんだ。マキコは中学で札付きのワルの兄貴がいたから、父兄達も皆、『マキコには気を付けろ』って言ってるほどだったんだ」
「ヌマちゃん、そいつにやられたんですか?」
「そうじゃない。やられたのは俺の方」
「ええ? そんなに強い女の子なんですか?」
「ケンカしたんじゃないよ。小学校の時は俺まだチビだったから。マキコに強制的に拉致されて、放送室に連れ込まれたんだ」
博之は、カクテルを一口飲んだ。
「やっぱりこっちが『シャンディ・ガフ』だ。甘い」
それを見て、小原もタンブラーに唇を尖らすように付けて、視線を横に向けながら一口飲んでみた。
「あ、こっちは、超辛口ビールですよ。ドライでこれ好きかも」
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博之が連れて行かれた放送室の防音室の中に、カナコと女子3人がいた。中には不良そうな6年生も1人いて、面倒な状況だと直感した博之は、
「帰る」
と言ったが、マキコやその他の女子も腕を強く掴んで、そうすることを許さなかった。
「木田! お前、カナコの気持ちを受け止めてやれ!」
「何でだよ」
「女心が解かんねえか?」
「そんなん俺は関係ねえよ」