隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「今日、あの3人に『力になってよ』ってお願いしてみたけど、暖簾に腕押し、糠に釘状態だったな」
溜息混じりに言った。
「でしょうね」
「お前が頼めって言ったのに、何それ?」
少々口を尖らせて言うと、
「きっとこれで変わりますよ」
うっすらと笑いを浮かべて言った。
「でも本当にもう少しだな、退職まで」
「ですねぇ。もう、あっという間ですね」
「気苦労が絶えないよ」
「私の退職と、愛音さんの婚約解消、どっちが早いか見ものですね」
「コラ。愛音は冗談じゃなくって、妊娠までしちゃってるから。本当に大変なんだぞ」
「クリスマスはどうするんでしょうね」
「え?」
「正月までには、婚約解消を切り出すんでしょ。その前に、クリスマス」
「そうか。そっちの方がエンドラインが先に来るわけだ。冗談言ってられないな」
「私の退職も冗談じゃないですけど。もう秒読み段階」
「それは解かってるよ。俺も少しは寂しい気分でいるんだから」
「私と別れちゃうことがですか?」
「・・・付き合ってるみたいに言うな」
「私、木田さんの年齢だったら、どっちかと言うと、旦那よりお父さんの方に近いから、それはないですぅ」
「分かってるよ(残念ながらそりゃそうだ)」
「愛音さんも、木田さんのことパパって呼んでるんですよね」
「そうだよ。だからそういう対象じゃないって」
「木田さんはどう思ってるんですか?」
「娘と言うか・・・何か身内みたいな感じで思ってるよ。これは本当の話」
「本当の娘だったりして」
「そんなわけあるか!(ヤバイヤバイヤバイ)」
「この前、その先生との仲のこと、意味深なこと仰ってましたよね。本質的なことがどうとか」
「ああ、あの話?・・・お前には白状しようか」
「スゴイ話ですか?」
「まあまあかな」
「じゃ、ヤバイ話だったら、私もヤバイ話、告白します」
「お。それ面白そう」
二人はニヤニヤ笑った。
「あれはまず、小学5年の時の話をしないといけないんだ。長い話だよ・・・」
「時間なら、まだいっぱいありますから」
テーブルにカクテルが運ばれて来たが、何の説明もなく、二つ同じタンブラーで置かれた。
「誰がどっちとか聞かないんですかね」
「まるで安い居酒屋対応だな。どっちがどっちか分かんないよ。色の薄い方がジンじゃないかな」
「私、そのドッグなんとか飲みたいです」