隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「でも女房が言うには、もう退院しても問題ないらしくって、夕方頃、自宅まで送って行ったそうだよ」
「へえ、でもその車の中でどんな話してたんでしょうね」
「どんなって?」
「赤ちゃんをどうするかとか。婚約者にどう言うかとか」
「さあ。帰ったら聞いてみるよ」
「じゃ、この後カラオケ行きますか?」
丸川係長が皆に声をかけた。
「ハーイ」と半数が手を挙げたが、小原は挙げていない。
「カラオケの気分じゃないな」
「そうですね」
小原の部下の3人がカラオケに行くと判って、小原も遠慮したようだ。
「もう1軒だけ、飲みに行きますか?」
「誘ってくれるのか?」
「はい。もう少しの付き合いですから」
また、小原の最高の作り笑顔を博之は見せられた。
二人は会社の皆と別れて、駅の方へ向かった。二人だけでどこかに行くところを見られて、変に勘ぐられるのは拙いので、二人とも自然と駅の方向に歩き出したのだ。
「どこ行こうか?」
「駅の近くには、飲み屋さんあまりいいとこないですよね」
「たしか、中華屋さんのビルの上に、バーがあったと思うけど、行ったことある?」
「いいえ。知らないです」
「昔行ったことあったんだけど、最近行ってないからどうかな」
「そこにしましょう。外は寒いから、一刻も早く」
「そうかごめん。手袋もしてないからな」
「ポケットに入れときますから」
「女房だったら俺のポケットに入れて来るよ」
「ええ? 仲いいですね。私、旦那のポケットになんか入れませんよ」
「手繋がないの?」
「いや、繋ぎますけど。私が繋ぎたい時だけ(笑)」
「新婚なのに」
「もう1年経ちましたね」