隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「こらこら。ウソでも頑張りますって言え! 何飲んでんの!?」
「カシスです」
「ビール持って回る時は、自分もビールのグラスを持って回る!」
小原は冷たい表情で言ったので、3人は静まりかえってしまったが、
「あれ? 焦げ臭くない? この鍋まだ火かけたままよ」
慌てて小原が蓋を開けると、一度も箸を入れてなかった小鍋の中は、水分がなくなり焦げ付いていたので、皆大笑いした。
その後も代わるがわる、社長にビールを注ぎに来る部下たちと喋る間、小原もついでに注がれては飲んで、
「この席いいですね。みんなビール注ぎに来る」
博之も小原もアルコールには強いので、何杯もお代わりを飲んだが、社長は気分がよくなって、若い女性社員のテーブルに移って行った。博之と小原は並んで座ったまま、話し続けた。
「昨日な、愛音が婚約解消するって、こっちに相談に来たんだ」
「おお。ついに来ましたか」
嬉しそうに顔を近付けて来た。
「でも、その後、大変なことになってしまって、今日の朝まで、ほとんど寝てないんだ俺・・・」
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昨晩・・・・・・リビングルームでぐたっりした愛音の様子がおかしいと気付いた秋日子は、泣きそうな表情で見守っていた。救急車を呼んだ博之も、どうしたらいいか分からず、声をかけ続けた。
「愛音。息が出来ないのか?」
愛音が嘔吐して、それを咽喉に詰まらせたのかもしれないと思い、上体を起こして背中をさすったが、口を大きく開けて、息を吸い込もうとする症状は改善されない。
「過呼吸じゃない!?」
「そうか。愛音、息を吐け。ゆっくり呼吸してみろ!」
「う、ぐ、ヴー」
「何か袋。袋持って来て!」
知子に指示した。知子はキッチンカウンターに置いてあった、パン屋の袋から中のパンをダイニングテーブルにぶちまけて、その紙袋を博之に渡した。