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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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「そう思ってたけど、必要なくなった」
今度は動じずに、余裕を持って話を続ける博之。
「どういうこと?」
「遺産相続」
「・・・どれくらいなの?」
「先生の保険金やら、お祖父さんの遺産やらで、現金だけで7000万も」
「いっ? そんなに?」
「その他に家もあるだろ。古いけど結構大きい家なんだ。相続税引かれても、それだけ残ったんだって。俺も今日、初めて聞いてびっくりしたよ」
「それ、向こうの家族も知ってるの?」
「いいや。それは内緒にしてるんだってさ。愛音もバカじゃないから、そんなこと軽々しく言ったら、集られるからな」
「でもあなたには、言ってくれたのね」
「俺は集らないよ。むしろその財産を守ってやらなくちゃ」
博之は心なしか、胸を張って話している。
「でも結婚したら、夫婦の財産てことになってしまうのは、まずいわね」
「それにさ、相手のお母さんが、お金出せない代わりに、愛音には『式に出られる親戚はいないでしょ。これでお相子よ』だって。それには相当腹が立ったみたいで」
「そりゃそうよね。何てこと言うのかしら」
「しかも、家に転がり込んで来た拓君のこと、『たまにはうち(実家)にも帰してあげてね』とか言われたらしいよ」
博之は溜息混じりに言った。
「式場の予約とか、まだよね」
「うん。でも、正月には相手の親戚とかにも、挨拶するように言われてるんだってさ。それまでに婚約解消しようとして焦ってる感じ」
「じゃ、急がないと」
「子供欲しかったから、今まで決心が着かなかったみたいだ」
「もう、丸高(高齢出産)になっちゃうからか」

「パパ!」
 秋日子が大きな声で呼んだ。博之と知子はソファの方に目をやると、小刻みに震える愛音を押さえ付けようとしている秋日子が、不安そうな表情でこちらを見ていた。
「愛音! しっかりしろ」
愛音は、目を瞑ったまま息苦しそうに口を空けている。博之は慌てて駆け寄り、ローテーブルに置いてあった愛音のスマホで、119番にかけた。