隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「もう、寝た方がいいんじゃない?」
「いえ、・・・気分がまだ・・・起きてた方がいいで・す・」
「じゃ。気分よくなるまでここに居ろ」
そして博之は知子に、
「毛布持って来てやって」
愛音は、水を一口飲んで、深々としたソファの背もたれに、埋もれるように身を沈めた。
「お姉ちゃん、ゆっくり休んでね」
秋日子が、愛音のグラスを受け取って、ローテーブルに置いた後、愛音の隣に座り、その手を握ったが、愛音は何も言わず目を瞑ったままだった。博之はテレビを小さな音で点けて、ダイニングの椅子に座った。やがて、知子が毛布を愛音と秋日子にかけてやり、リビングは落ち着いた。
「飲ませすぎなんじゃないの?」
「ちょっと油断し過ぎたかな。あいつ酒は強い方だと言ってたから」
知子の声は小さかったが、怖い顔で言った。博之は知子に責められると、シュンとなる。
「何飲んだの?」
「ジンバック。スクリュードライバ。ソルティドッグ。それから俺が飲んでた赤ワインを2、3口ほどかな」
「じゃ、普通ね」
「だろ。まさか、立てなくなってるなんて思わなかった。店出る前までは普通に喋ってたんだがな」
知子の表情から力が抜けて、博之はホッとした。
「体調が悪かったのね」
「心労だよ。結婚やめる決断したらしいから」
「え!? 何でなの?」
「なんとなく、うまくいってないって気がしてたんだけど。拓君が相当だらしない奴って判かったみたいなんだ」
「今更?」
「それだけじゃなくって、向こうの親とも、うまくやっていける自信がないんだって」
「それ、同居するわけじゃないんでしょ」
「そうだけど、口うるさいんだって。結婚式の費用の援助も出来ないくらい貧乏なくせに。拓君も貯金ないから、その費用は全部、愛音が出すんだぜ。それに最近、日産エクストレイル(車)を買ってやったらしいんだ。拓君の希望で」
「愛ちゃんお金大丈夫なの?」
「うちが援助する必要はないよ。安心して」
「でもちょっとくらい、あなたにも責任があるでしょ」
また怖い顔で言った。