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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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第8章 父娘の相談



 雪が降ったある日、愛音は博之と会う約束をしていた。愛音は電車で博之の住む町まで来た。クリスマスのイルミネーションが、それほど豪華でもなく飾り付けられた、駅前の街路樹が見渡せるロータリーへ、エスカレーターを降り立った。そこは初めて愛音が博之に会った場所だ。当時はまだエスカレーターがなく、階段の途中で博之と目が合ったことを思い出していた。
 今朝から除雪された雪が積まれたロータリー中央の駐車スペースに、博之の車はなかった。愛音は白い息を空中に吹き込むように吐いて、どうやって時間つぶしをしようかと考えていると、クラクションの『プッ!』と軽い音がした。すぐ近くに黒い商用バンが停まっていて、その運転席に、ニヤニヤ笑う博之が乗っている。
 愛音はすぐさま駆け寄り、助手席のドアを開けた。
「何この車?」
「会社の。今忙しくって、現場仕事も手伝ってるから」
「部長なのに?」
「小さい会社だもん」
「お腹空いてる」
「うちに来るか?」
「知子さんは、ちょっと苦手」
「そうか」
「前に、おいしいビストロがあるって言ってたでしょ。そこがいいな」
「洋食Shi−ba」
「そこそこ」

 博之は車をゆっくり出した。
「今日はね。真剣な話があるの」
「結婚についてか?」
「うん(笑)」
「いい話と悪い話のどっち?」
「悪い話に決まってんじゃん」
「決まってんのか」
博之は愛音の顔を見ずに、また降り始めた雪がフロントガラスに落ちて来るのを見上げながら、2回頷いた。そして、信号待ちを利用して、スマホを取り出すと、
「もしもし、木田ですけど。どうもこんばんわ。・・・・・・こちらこそ、いつもありがとうございます。今からなんだけど、席空いてますか?」
「そうか、クリスマス前で混んでるのね」
段々と大粒になる雪を見ながら、助手席の愛音が独り言を言った。
「カウンター席でもいい?」
博之は愛音に目配せして、
「う、うん」
と少し困惑したように答えた愛音の顔を、ようやく見ることが出来た。
「じゃ、それで。10分後くらいに着きます」
 クリスマスと言っても田舎町じゃ、それほど盛り上がるわけでもなく、平日の晩は、人気のビストロでも、予約で満席ということはなかった。