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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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「こども、俺の子供が出来たなんて・・・うっうー!!!」
ソファに腰かける愛音。その足元には、両手を着いて、嗚咽を繰り返す拓君がいた。首を絞めながら愛音のギリギリの声を聞き取ったのだ。彼はしばらく放心していたが、予想もしない現実に、自分で状況を把握出来ていないことを悟った。
「そうよ。あなたはパパになるの。でもね、今の拓君じゃ、到底それは無理だわ」
「そ、そんなことない。これから変われる」
「そうね。これからなのね。まだ大人になってなかったの」
「・・・・・・」
「それはあなたも分かってるわね。やらなきゃならない時に出来る人にならないと、私も子供も頼りに出来ないわ」
「俺、分かったから、一緒に育てよう」
「・・・それは無理よ。私は片親だったから、親の苦労がよく解るの。お父さんがいないことが、どれだけ大変かって知っているわ」
「それじゃ、俺がいないと」
「いいえ、頼れないお父さんじゃ、もっと大変だと思うの」
「そんなこと・・・」
「聞いて拓君。本当のこと話すわ」
愛音は乱れた服を直しながら、真剣な目で話した。

「私は、木田さんの娘なの」

「・・・!? え? どういうこと・・・」
「歳は十五しか離れてないけど、あの人が私の本当のお父さんなの」

 愛音の半生は苦渋に満ちたものだった。愛音を身籠って、ひとみは父親から勘当された。社会的地位のある大学教授としては、どうしても、一人娘が未婚の母になるというのは、許せなかったようだ。しかも、その子の父親が誰なのか、ひとみが頑なに言わなかったことは、家族からすれば、それ相応の裏切りだったのかもしれない。
 ひとみは愛音を産んですぐ、家を出た。音楽教師になる夢は、この時点で潰えていた。母親からの僅かな援助と、アルバイトで生計を立てながら、愛音を育てた。狭いアパ−トにはピアノは置けず、と言うより、買うことなど出来るはずもなく、小さい頃愛音は、おもちゃのピアノで遊んだ。
 ひとみが博之に連絡を取らなかったのは当然のことである。将来のある少年に、自分が作った荷物を背負わせるわけにいかないと考えていたからか、自らの責任で愛音を育てるという決意だったのか、或いは、自分たちの生活だけで精一杯だったからか、今となってはそんな想像をするしかない。