隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「我慢なんて、今はお前の方が上の立場でいたらいいんだから」
「そんなこと出来ないですよ。会社だって、私の家の都合で辞めてもらうんですから」
「そうか。浮気は別の話になるけど、それが理由じゃ、旦那さんの言い分も、多少は聞いてあげないとな」
「でも、今日会社でトラブル起こす必要ないじゃないですか。ねえ」
「なんか、ひとつ事が済んだら、何かが起こるな」
「いつもそうですよね、こんな面倒ばかり。結婚してなかったら、すぐ乗り換えるのに」
「おいおい、もう結婚してんだから、それ簡単に言い過ぎ」
「でも、旦那も浮気からスタートした関係ですから」
「おおっと、そうなの? 俺も同じようなもんだけど。そう考えると、小原の今の心境、よく解るな」
「そうですか?」
「過去はどうあれ、今の自分を相手にどう見せておくかって重要だし。そのイメージを崩してしまうと終わりみたいな。結局誰だって、無茶苦茶なことやってるのに」
「そうそう、そうなんですよね。若い時だったら、浮気されたらやり返せばいいし、バレちゃっても適当に誤魔化して、逃げちゃえばいいんですけどね」
「ああ俺、それよくやられた」
「私よくやりました」
「はははははははは」
「でも、次は絶対そんなことしないようにって思うんですけど、咽喉元過ぎちゃえば平気になるんですよね」
「そうなあ。解る。で、またしてしまうんだよな」
「でも、されることも多かったんですよ! 二股掛けられてるの判ってるのに、都合のいい時にだけ呼び出されても、会いに行っちゃうんですよね」
「そんな羨ましいこと」
「なんで羨ましいんですか?」
「はははっ、相手の男がね。お前女神様じゃないか。やっぱり男に与えすぎなんだよ。何か奪っていかないと」
「その時はすごく可愛がられるんで、相手が奥さんと喧嘩した時とか、近くで飲んでて、ついでにアパートに寄られてたりしても、入れちゃうんですよ」
「そんな経験、山ほどあるのが想像つくよ」
「ま、大人のお友達って呼んでました」
「大人のお友達か。ふふふふ。俺は同棲するのが早かったから、そんなお前の自由さも羨ましいよ」
「いつまでも自由でいたいですね」
「うん。でも反面、仕事に関しては、真剣にやり切ってくれたな。だからお前は“大人ないい女”だよ」
「木田さんはもっと大人ですけどね」
「ちょうどいい大人のお友達でいたいけど、皆やってることは、子供みたいなもんだな」