隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
愛音はまた、力いっぱい暴れた、しかし拓君は、更に体重をかけて、激しく肩を押さえ付けた。愛音は腰を浮かして、拓君を揺り落とそうとしたが、その時お腹の赤ちゃんに負担がかかることを気にして、思い留まった。
「待って、・・・お腹に赤ちゃんが」
泣きながら訴えたが、もうはっきりと声にはならなかった。両手を拓君の腰の下に差込み、自分のお腹を抱きかかえるように守りながら、愛音は目を瞑り、幼い頃の母ひとみとの生活を思い浮かべた。
「・・・・・・・・・」
その時、不意に拓君の動きが止まった。愛音の声を、かすかに聞き取ったからだ。
「赤ちゃん・・・って?」
愛音は泣きながら、声を出そうと努力した。
「そ・うなの・よ。私・・・妊娠・してる・の」
愛音は絶対に打ち明けるつもりはなかったはずなのに、今はこうするしかなかった。
「妊娠したんだ・・・ね・・・・・・」
拓君の表情は更に力なく、虚ろな目になった。
「・・・?・・・・・・???(どんなふうに考えてるの?)」
「だから、あの人に別れろって、言われたんだな!」
「・・・!」
(何を言ってるの? !!! パパ? パパのこと言ってる? 違うよ! 何か言わなきゃ)拓君の表情は苦悶に歪み、次の瞬間、愛音は左の頬を力いっぱい叩かれた。
そして暫く、愛音はその目をじっと見ていた。睨み返しているのではなく、また、見詰めているわけでもない。ただ、暴力者が視界に入っているだけだった。そして、博之のことを思い浮かべた。
「違うの・・・。木田さんのことを言ってるのね。それは違うわ」
「もう、いいよ。ずっとあいつのことばっかり」
拓君の手が愛音の髪を撫でた。頬に流れる涙を指で拭い、その手は首筋を撫でた後、また両手で肩を押さえ付けた。そして、
「死のう・・・」
「!!!」
突然拓君は愛音の首を絞めた。彼の表情は涙なく悲しみに歪み、見上げる愛音には天井の電灯の陰となり、この上ない恐怖を増大させた。
「うっぐ、やめて、やめて! 拓君! たく・く・・!」
「俺も死ぬから」
「!・・・やめて! ちがっ・・・あ・人は・・・あの人・・・」
必死でもがいたが、声が出せない。
「死んで、あの世で一緒になろう・・・」
「あ・たの・・・赤・ちゃ・・・」