隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第33章 最後の日
ついにこの日が来た。小原の退職日である。
博之も小原も少し心に引っかかることもあったが、平穏に一日を過ごしている。小原にはそれほど仕事が残っていたわけではないが、手を抜くことなく、いつも通りに動き回っていた。そしてパソコンのデータのバックアップや、支給備品の整理等に博之は付き合った。
「何だこれ、懐かしいノートだな。まだ持ってたのか」
「それ、入社当時のやつですね。全然整理してなかったから。それ記念に持って帰っていいですか?」
「機密情報がなければ、いいけど」
博之がパラパラとページをめくると、パソコンの立ち上げ方や、コーヒーを入れる際の分量などが書かれていた。あとは、漫画のような落書きだらけだった。
「こんな時あったんですよね。何考えて仕事してたんでしょうね」
「ははは、よく成長したもんだ。よし、顧客情報とかって、この頃は扱ってなかっただろうから、持って帰っていいよ」
「ありがとうございます。この組織図もいいですか?」
「これは、どうして?」
「私が“主任”て書いてあって、チームのトップに立ってるから、実家で自慢しようと思って」
「そうか、このポストをなげうって、実家に帰って来たって言ってあげて」
「はい。額に入れて飾ります(笑)」
小原はその他に、胸の名札や、ホワイトボードのネームプレート、使い慣れた文房具も貰っておくことにした。
「そろそろ、各課に挨拶回りした方がいいんじゃない?」
「そうですね。行ってきます」
その後彼女は、小一時間事務所を離れた。その間に小原の後輩の一人と雑談していると、彼女が恋愛相談を持ちかけて来た。
(小原がいなくなったら、この子と恒例ミーティングを継続するのかな)などと、しんみり思った。
その次に、岩瀬が小原の送別会で渡すプレゼントは、何にしたらいいかと相談して来た。
「女の人は難しいですよね。一人500円ずつ集めて買えるもので、1万5千円くらいになるんで、調理器具とかどうですかね?」
「好みが難しくないか? 鍋とか?」
「いえ、ミキサーとかホットプレートとか」
「すでにそういうの持ってるらしいよ。おしゃれなやつ。それに彼女なら、美容関係の方がいいと思うけど、もっと難しいかな」
「じゃ、手っ取り早く、商品券にしましょうか。それが一番喜ばれるんじゃないですかね」
「うーん、そうかもしれないけど、そんなんじゃ女心は掴めないぞ」
「現金が一番いいと思うんですけどね」
「プレゼントは、深く心に刻まれるくらいの物でないと」
「じゃ、部長、何か小原主任が喜びそうなもの、考えてくださいよ」
「うーん。そうだな・・・主任へのプレゼントか、それに関して特に今は、真剣に考えてやらないと・・・」