隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「聞こえた?」
「はい。丸聞こえでした」
小原は安心して笑いながら言った。
「な、お互い遠慮しちゃってんの」
「そりゃしますよ。せっかく二人でデートされてるとこに割り込んだんじゃ」
「それは俺がお前を誘ったからだろ」
「そうですよ。私の立場はどうなってるのか、分からないじゃないですか」
「よし、分かった。じゃ、やっぱりそっちに座る。いいだろ」
「え?」
博之は立ち上がり、小原の隣の席に移動した。壁側のソファ席に二人並んで座った。小原はわざと博之から離れて、
「ええー?」
と恥かしがって見せた。そして、ちょうどコーヒー二つが席に運ばれて来た時、愛音が店に入って来たのだった。愛音はすぐに二人を見付けて、にやけ顔で近付き、
「やっぱり私お邪魔だ」
と並んで座る二人に言った。
「広いソファの方が楽だから」
「腕組める相手いないって言ってたのに、いい人いるじゃない」
と愛音が皮肉っぽく言うと、
「私たちそんな仲ではないですよ」
と慌てて言う小原。
「じゃ、どんな関係なの?」
ちょっと意地悪な質問を投げかけたのは、小原の様子を探るためだ。
「仕事仲間じゃないか」
「パパ。一目で仲いいって分かるわよ」
「愛音さんこそ、パパって呼んじゃって、どんな関係なんですか?」
小原もささやかながら、言い返してみる。
「うん。親子親子」
真顔で言う愛音。